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<山本はもてるんじゃないかなという空想前提で>

西棟3階廊下東端。選択音楽はサボろう(10代目は美術でいらっしゃるのでご一緒できないし)と思ったら先客がいて、誰か(しらねーけど追い払おう)と思ったら山本で、しかも見るからに落ち込んでいやがったので、いい気味だと思う。

「なに辛気臭ぇカオしてんだよ」
「…………フラれた」
「は?」

耳を疑う。
それから、ここしばらく山本が昼休みや放課後付き合いが悪かったことや、クラスの奴らに囲まれてにやにや質問責めにあっていたことなんかを思い出す。そうだこいつ、3年のなんとかいう女と付き合ってたんだっけ?

「フラれたのか」
「フラれたの。」

フラれたの、マルだ。フラれたのな、へらっではない。うわなんだこいつ、まじでへこんでやがんの。

熟慮の末、傷口を拡げてやることにした。

「三週間だっけ?」
「二週間。」
「短っ」

なら最初から付き合うなよ。

「だって」

聞いてもいないのに山本はだってと言った。

「だってしょーがねーじゃん。フツーなら断ってたんだぜ。なのにあのセンパイひどくてさ、いきなり廊下で付き合って、って。みんな見てるし、断れねーじゃん。」

いや待て、オレはおまえはそういうときこそへらへら笑ってかわすようなやつだと思ってたぞ。そういうの何回も目の前で見てるぞ。

「あれは、その前に予兆とかあって、オレも心構えできてんの。今度の先輩はいきなりだったから」

そりゃオレも顔は知ってたけどさー。

有名人同士というのは面倒臭いらしい。
つか、そんなもん観衆を味方に付けられた時点でてめーの負けじゃねぇか。やーい負け犬め。

「で、断れなくて付き合って、飽きて捨てられた、と。」
「言うなよぉ」

みょうにへにょへにょした声を出すので、気色悪い。もしかして姉貴に出くわした時のオレもこんななんだろうか……と思うと、こいつにはいろいろ借りもあるような、あんまここぞとばかりいじめるのもな、まるでオレの器が小さいみてーだしな、とか憐憫の情も湧いてしまう。

「……つか、何でそんな落ち込んでるんだよ」

ああいうのは、付き合って深く考えるだけ無駄なんだ。姉貴とかエロ医者とか、あいつらみんな思考回路が宇宙の果てにリンクしてるんだ。常人には及ばない。考えるだけ無駄。
なのに、山本は膝を抱えたまま、遠近法のモデルみたいなタイルばりの消失点を見詰めていた。
ああ、今頃10代目は何をしておいでだろう。たとえミミズがのたくっているようにしか見えかろうと10代目のお描きになったものならそれは……

「山本君て、」

ぼそっと言ったので、その存在を思い出した。なんだよ、まだ話す気あったのか。
あーはいはい。山本クンて?

「子供みたいでかわいいなって思ってたんだけど、付き合ってみたら本当にただのこどもだったんだもん」

……おお、その女なかなか真理を突いている。
山本は真理に繋がるタイルの消失点から目を逸らし、膝の間に顔を伏せた。

「もー、わっけわかんねー!どこ改善しろっての? こどもっぽいの直せばいいの? でもそしたら最初の惚れるキッカケもなくならねぇ? つかこどもってナニ? オレ先輩よりいっこ下だし!」

叫んだと思ったら山本はついに沈没した。絶対零度でメルトダウン。
よくそこまで落ち込めるもんだ。別におまえはその女が好きだったわけでもないだろうに。

「……ごくでらって冷てぇ」
「はあ?」

山本は、恨みがましい目というやつでオレを見た。
そんな目で見られてもなんも出ねぇよ。つか、その傷に塩塗り込まないだけオレの厚情に感謝しろ。

「せめてさぁ、なんか感想ない?」
「ねーよ。」
「聞いた癖になんにも?」
「聞いてやったけどなんにも。」

ごくでらは想像力が足りないんだ。
ぼそっと山本は呟いた。

「例えばごくでらがさ、」

山本は口を尖らせてそう切り出して、唐突に切り上げた。手で口に蓋をする。

「おいなんだよ、途中で止めんな」
「いや、でもちょっと……」

山本は口元を押さえ、俯いて……肩を震わせている。
ナニ急にうけてやがんだ。

「なんだよ、言えよ」
「いやその、ごくでらがさ……、」

明後日のほうに目を反らし、山本は両手をバンザイさせた。
おい、さっきまでの落ち込みはどこ行った?何だその恰好、どっかに放り投げたのか?
いいやがれ、とにらむと、にまぁと微妙な笑みを浮かべて山本は口を開いた。

「ごくでらがさ、ツナに、一生懸命だから右腕にするって言われて、で、そのあと一生懸命すぎていやだから辞めてって、言われたら?」

言われたら。

絶望的だ。

絶望的に絶望的だ。

(落ち込みはオレのところにきやがったのか)


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