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<黒獄寺注意。>


逃げて来てしまった。
はしってはしって走って走って、逃げて来てしまった。
暗い路地で、彼がごろりと蹴り転がしたのは、人の頭だったように見えた。
暗い路地に黒い血溜まりに黒い頭部。
なんで彼だけ銀色なんだ。
そんなんじゃすぐに見つかっちゃうじゃないか。
見つけてしまったじゃないか。
彼が顔を上げた。
銜えた煙草の先から灰が落ちた。
これまた白かった。
白いものがキラキラ落ちて行く。
それだけみて、そこから焦点を逸らさないで、彼の目は見ないで、くるりと急ターンしてオレは走って逃げた。
彼はどんな目をしていた?
誇らしげだった?
『………っ!!』
いつもみたいに笑って呼ばれたら死刑宣告だ。
だから逃げた。走って逃げた。
もしかしておれは、なにもしらなかったんじゃないか?
ちがうものをみていたんじゃないか?
かれがおれのうえにかさねていたなまえは、
もしかしてそういうものなんじゃないか?
オレは、彼は友達だと思っていた。
彼は仲間だと思っていた。
いつでも守ろうとしていてくれたから、
勝手にオレは、彼はいいマフィアなんだと思っていた。
正義の味方みたいに。




見られてしまったな、と、思う。
しくじったな、とも思うけど、いつか来ることだから、
後悔はしていない。
そうだ。していない。ちょっと残念だとは、思っているけれど。
中学生ごっこを始めるときに、腹に決めていたから後悔なんてしていない。

ねえ、10代目。
この世にいいマフィアなんていないんです。
いるのは、ちったあマシな仕事をしているマフィアと、
こんなどーしよーもねー仕事をしているマフィアと、
そんだけ。
でも、

「でもオレは、あんたを世界一マシなマフィアにしてみせる。
 ねぇ、10代目。」











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ランボ(5歳)に話す時、
ツナはしゃがむ。
膝曲げて腰おとす。
獄寺はしゃがまない。
膝も曲げないで腰から折れる。
手はポケット。

靴ひも解けていたら、
ツナはしゃがむ。
獄寺はガードレールに足乗せる。

でもそんなんじゃなくて。

ランボと話す時、
ツナはしゃがむ。
獄寺は前傾して足下を見る。
でも二人とも、
フゥ太にはまっすぐ。
しゃがまなくても話通るから、
目の高さあわせなくても視線が合うから。
だから、
フゥ太はしゃがんでもらえない。
今日は近所の公園で花火大会でした。
オレは全然知らなくて、
どぉんという音を聞いたとき、びっくりして




びっくりして「獄寺君!?」とかゆっちゃったよ。

(だって、爆発音ていったら獄寺君じゃん)
(火薬の匂いっていったら獄寺君じゃん!?)

夏でドォンていったら、普通は花火だよなあ。
オレ空見ないで左右確認しちゃったよ。
ああもう。しかも、

(ほっとしたけどちょっと残念だったって、なんだよそれ)
(知っていれば誘ったのにな)
(って、あれだから。獄寺君だけじゃないから、ちゃんとみんなで)

ああ、この考え方が既におかしい。
だってさあ、
「人混み+獄寺君=めんどくさい、やめよう。」
これが公式じゃなかったっけ?
いつのまに?

(でも、別に大勢じゃなくてもいいんだよな)
(別に二人でもいいんだ)
(二人でベランダから花火見たって……)

だから、いいわけないって。
ああもう、オレ。
末期だ。









キスっていうのが
ほんとはこーやって唇をくっつけるだけじゃなくて
もっといろいろ、
その……
よく知らないけど
いろいろすることがあるんだってことは
オレだって知ってる。
知ってる、けど。
したことは、ない。
まだ、ない。


彼のやり方はしょーがないなってそんなかんじで
どこか割り切ったような、
照れ隠しとかそんなんじゃなくて
なんか自分のことじゃないみたいに
自分がやってるんじゃないみたいに
オレにキスをさせてくれる。
かえりみち、
オレが腕を伸ばして頬に触れれば、
唇を貸してくれる。


少し、さびしい。
かなしい、なさけない?

くやしい。


出会ってからどのぐらい?
友達になってからは?

こ・・とに、なってからは?


オレ達はきっとまだ
子供なんだろう。
でも、オレの生きてきた時間があって
獄寺君の生きてきた時間があって
オレ達は、お互い知らないことだらけだ。

どこで誰とそんなやり方を覚えたの。
どうして全然知らないふりで、オレに歩調を合わせてくれるの。
わかんないことだらけだ。

わかっているのはただ一つ。
こんなやり方はお子様で、
もっと違うやり方があるということ。

見てろよ。

帰り道、じゃあまた明日って
笑った顔を思い出して、
オレはちょっと大悪党な気分になる。


見てろよ。
いつか、
めろめろにして腰が抜けて
帰りたくない、なんて言わせてやる。










獄寺君が、ピアスを開けた。
しかも、普通に耳たぶじゃなくて、耳の横の、ちょっと硬い辺り。
「痛くない?」
「いえ、そんなには」
「でもここ……」
自分の耳をなぞって確かめてみる。
「軟骨あるよねぇ?」
痛くないはずがないんだ。
彼の耳で、光る銀色の、その下の小さな赤い穿穴を想う。
彼は、痛くないと言う。
そりゃ、どんな大怪我でも、何時もの小さな火傷でも、一度も痛いなんて言ったことない君だけど。
オレは、手招きして獄寺君を呼んだ。
ちょっと背伸びして、舐めた。まだ新しい傷口を。
「なっ……!」
獄寺君は跳んで逃げた。両手で耳を押さえる。
「何なさるんスか、急に……!」
顔が赤い。見えないけど、耳も多分真っ赤。
「だめじゃん。マフィアなのに、急所増やしちゃ」
笑って言うと、獄寺君は珍しくぼそぼそと反論した。



こんなとこ、10代目しか責めません。










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