おいでませ。
-
こちらは舞台裏、管理人のラクガキ帳カキカケblogです。
もはや完全に整理整頓を放棄しています。
ご気楽にどうぞ。
こうしんりれき
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08在庫整理第二弾。
未完成放置。
通常ツナ獄。
>PLAY
夏です。
ええと……夏って言ったら夏なの! ここ突っ込み不可!
そんな訳で夏です。
夏の健全な学生と言ったら、八月最後の一週間に溜まりまくった夏休みの課題との死闘だと思うんです。
というわけで、オレの目の前には。
国語数学理科社会英語、のワークブック。それぞれ見開き二十ページもあったりしてね。
うわ、それって全部で百回もまっさらなノートを広げなきゃいけないってことじゃん。夏休みをなんだと思ってんの。
と、百ページすべてまっさらな状態で八月二十五日に獄寺君に言ったら、初日から見開き三ページずつやってりゃ休日もありましたよ、と返されました。はい、ぐぅの音もございません。
でも夏休みの中に更に休暇を設けるとかありえないからね。あっはっは。……はぁ。
一日十五ページ? そう、ありがとう。計算速いね、獄寺君。メガネよく似合うね。有能な美人秘書みたいだね。あ、照れた? ……ハイごめんなさい。遊んでる場合じゃなかったです。これから一週間よろしくお願いします。……あーやだなあもお。
あ、でも読書感想文は終わってるんだ、オレ毎年走れメロス使い回してるから。しかも今年は同じく毎年メロス使い回してる山本と取り替えっこしたからね。ちゃんと語尾とかちょこちょこ書き換えたし、多分完璧。
あと今年は理科の自由研究も終わっている。共同研究可ってそういう意味だったんだ。持つべきものは友人って本当だな。
(……あ、最後のは結構本音だ。
三人でランボ達のプールぶん取って水遊びすんのは結構本気で楽しかった。)
(でもやっぱデータ処理は獄寺君に任せましたごめんなさい。
グラフ書いたりは手伝ったので許してください。
電卓も満足に使えなくてごめんなさい。)
「……終わらないって無理だってー。」
足利なんとかさんの上にシャーペン放り投げてオレはちゃぶ台に突っ伏した。
もはやここ数日のお約束。でも、珍しく。
「けど、もーすぐ戦国時代まできましたよー……ファイトっスじゅーだいめー」
今日は獄寺君までぐったりしているのは、オレたちが今ものすごくあほなことをしているからだ。
何って、『クーラーの室温設定30度から始めて、見開き一ページ終わったら室温設定を1度下げてよい。』とかそんなルールを作ってみたんだ。
最初はオレが問題を解くためだったんだけどね。問題解かなきゃ暑さから解放されないから。
でも、現在室温19度。
さっむい!
しかももう時刻は夕方だ。本当は窓を開けて扇風機回せばその方が快適。
地球環境にごめんなさい。明日はこんなバカはしません。いやほんとまじで。
さぁっむいってば!!
なのに、オレはまだ窓を閉め切って逆我慢大会をしていたりする。
なぜならば。
「……10代目ぇ。次のページで折り返しませんか?」
獄寺君はクーラーのリモコンを指差した。
半袖のポロシャツのオレはともかく、獄寺君はタンクトップに薄手のシャツを羽織っただけだ。この冷気が真剣にシャレにならないらしい。体育座りした上に両膝抱え込んで自分で自分を抱いている。
「……宿題の答え、見せてくれたら温度上げてもいい。」
「…………だめです。」
「じゃあ、まだ下げる。ああ、あっついなあ!」
オレは我ながらわざとらしい声を出してシャーペンを握り直した。
そう、意地になって馬鹿みたいな逆我慢大会を続けている理由はただ一つ。こんな具合になんかもう全然最初の趣旨と変わってきちゃってるからです。
だって、さぁ。
じゃあ君は何のために七月の最初の三日間でさっさと全問解いちゃったんですか。
暇つぶしかもしれないけど、嫌がらせじゃあないよね。
オレのためだよねソレ、勘違いでなきゃ。
なんだ? 最終手段は本当に最終まで出さないつもりなのか。徹夜で書き写し作業って、結構辛いんだけどな。今さっさと写してしまえば、残りわずかな夏休み、あと何日か遊びに行けるのに。獄寺君は行きたくないんだろうか。
それとももしかして獄寺君ほんとはオレのこと嫌いだったりとかするのか。
(…………ごめんなさい、今のは本当に冗談です。
忘れてください、オレは忘れます。)
オレは再び空欄だらけのノートとにらめっこする。
えーと。
この建物は金閣寺でこっちは銀閣寺です。孫悟空とは無関係なんだそうです。
オレ、千年も前のエラいヒトよりなんで金閣銀閣が孫悟空と関係ないかの方が知りたいよ。
え? 足利さんは千年も前じゃない?
えーい、年号も引き算も知るか! 年号の一番はじめが1だから全部大まかに千年前なの。
「……わかりました。西遊記は調べときますんで、金閣寺はざっくり六百年前で銀閣寺は五百年前っス。10代目。」
「いや、調べなくていいから答え見せて。」
「だめです。」
即答だし。なんだまだ元気じゃん。
ベッドの上の毛布貸してあげようかなとか思ったけどやめた。
つーかそのシャツ脱ぎやがれ。扇風機の風、直接当てるぞ、おらぁ。
……冗談です。最近オレ獄寺君の口調が感染ったよ。真似できるもん。
…………いや、本当に、今の本気じゃないから。オレ、マフィア関係ないし。
オレはページをめくる。
次いで、意地でクーラーの室温を一度下げる。
リモコンに乗せた手に、獄寺君の手が重なる。
ひんやり、冷たい。
「もう……やめませんか? 10代目。」
獄寺君の手のひらが冷たい。
リモコンより冷たい肌が白い。
白いけどあったかい。
(…………え?)
ごめんなさい。
もしかしてこれは本当に獄寺君は体調がヤバいんじゃないかと思い当たったのは、ささやかな幸福感がオレを満たした後でした。
(平気かな。)
オレは獄寺君の顔色を窺う。
獄寺君はペッタリとテーブルに突っ伏していた。
確かにテーブルの方が室温よりあったかいかもしれない。
左手だけ出して、ぴったりのオレの手に重ねている。
これは、完全に利用されてるな、オレの左手。ホッカイロか何かの代わりにされている。
クーラーの風が当たって、細い髪がはらはらとテーブルに散らばる。毛先が消しゴムのカスの上に乗っかってしまった。せっかくキレイな髪なのに汚れてしまう、と思ったけど、もうちょっと獄寺君を見ていたかったのでオレは手を引っ込めた。
蛍光灯を映して、緑の瞳の中に白い星が一つ。
姿勢はぐんにゃりしているけど、顔色はまだ平気そう。
(まだ大丈夫か。)
比較対象はビアンキ見てぶっ倒れたときの獄寺君だけど、まだ、大丈夫そう。
獄寺君と遊ぶときは慎重に。
でも、今はもうちょっと大丈夫そう。
シャーペンを放して手を伸ばして、銀の髪にくっついてしまったネズミ色の消しカスを取り払った。
「やめるって、宿題を?」
「じゃなくて……。冷房を。」
「答え。」
「だめです。」
「じゃあ続ける。」
「つか、18度って、こっから先ありませんよ。」
「じゃ、次から扇風機。」
「ええ?」
「ほら、あと三ページだから、弱中強でちょうど終わるじゃん。」
__沈黙。
「ねぇ、獄寺君、答え。」
「……ダメです。」
「さーて宿題するかぁ。」
オレ、絶対感染ったよ。このよくわかんない意地っ張り。
オレは一人で笑いを噛み殺す。獄寺君は、雨でずぶ濡れの子犬みたいな目でこっちを見ている。
うん、ごめん。これはちょっといじめすぎたかな。でも、ねえ。
さっきからリモコンの上で重なった獄寺君の手が、ぴったりくっついたまんま離れないんですが。
これはいけると思っていいですか。
(つか、そんな寒いんならこのまま勝手にリモコン押せばいいじゃん。)
手首を返して、重なっていた獄寺君の手を捕まえた。もう片手も捕まえて、引き寄せる。
オレの肩に獄寺君の腕を回して、そのまま獄寺君の身体を背中に乗せる。強制的におんぶ状態。
「、わ……」
獄寺君はちょっと驚いたような声を出して、でも逃げなかった。
獄寺君は逃げなかった。それどころか、両腕をオレの身体の前に回して、マフラーみたいに巻き付く。細い顎が肩に乗って、くすぐったい。ぴったりくっついた背中があったかい。
行けるかな、とは思ってたけど、あんまり素直にくっついてもらえたのでオレは急に恥ずかしくなった。実はこういうのはまだ慣れてない。
(だって、獄寺君あんまりくっついてきてくれたりしないしさ。)
べたべたしてるとか、いっつも一緒にいるとかリボーンなんかには冷やかされるけど、オレたちは実際はちょっと違う。獄寺君は、一緒にいてくれるけど、それ以上こっちには来てくれない。理由はよくわからない。結局、獄寺君から見たら、オレたちって10代目と右腕だから、なんだろうか。
だったらもういっそ据え膳頂いてしまえって気もするけれど、オレは獄寺君が好きなんであって右腕が好きな訳じゃないから、実行できない。それじゃあいつか、獄寺君に、オレが好きなのは沢田綱吉さんではなく10代目です、なんて言われてしまいそうな気がする。
(まさか、そんな日は来ない、とは思うけど。)
けど、自信はない。
(いや、オレ自信持ってることなんか一個もないけどね?)
結局、いつもお預け喰らっているのはオレの方だと思う。主導権も選択権もくれるけどでも、オレが欲しいのはそんなんじゃない。じゃあ何が欲しいんだろ。やることは一通りやってしまった。男同士だし、オレたちはまだ子供だし、こっから先は子供が出来る訳でも結婚する訳でもない。それでも一応、プロポーズでもしてみる? 二つ返事で一生付いてきますって言ってもらえそうだけど、そんなのが欲しい訳じゃない。右腕として一生お仕えする覚悟とか、されても困るんだ。オレが欲しいのはそういうのじゃなくて……何が欲しいんだろ。
……あ、なんだかぐるぐる考えてるうちに悲しくなってきた。
(せなか、あったかいな。)
背中が温かいので、オレは全部忘れて宿題をすることにした。
歴史は、今朝、縄文時代から始めてやっと戦国時代です。
この辺はゲームのおかげでちょっと詳しい自信がある。
ええと、織田信長と豊臣秀吉と……あれ?
「獄寺君、幸村は?」
「真田幸村は天下取ってないんで、教科書には出番はありません。」
「……じゃあ、政宗。」
「も、書く場所ありません。」
「サスケ……」
「そもそも歴史上実在が不明っス。10代目。」
じゃ、オレもう解けるところないじゃん!
そこに獄寺君が追い討ちをかける。
「あと、上杉謙信は男です。」
「さすがにそこは知ってるよ!」
思わず振り向いてツッコミを入れた。
顔が近い。冷たそうな頬の上の、色素の薄いぽあぽあした産毛まではっきり見えるほど。
危ない、ぶつかるとこだった……て言うか事故でぶつかった方が良かったな。こういう時は偶然キスしたりしちゃうのがお約束じゃないか? ていうか、今からでもできないか?
不純なことを考えて硬直したオレを、きょとんと見つめ返して獄寺君が瞬きする。
うわあ、もう……!! ぜんっぜんわかってない。ごめんね、どーせこんなこと考えてるのオレばっかだよ。
慌てて正面に向き直ったら、何かが背中でぐりっとえぐれた。
「痛っ」
「あ、スミマセン!」
背後でごそごそ獄寺君の動く気配。のしかかる体重が0になって、一瞬背中が空っぽになる。首元に回された腕も外れて、しまった、引き止め損ねた。
唇を尖らせる、よりも早く視界の右端にすとんと何かが降ってきた。
「これが当たったんスね。すみません、気が付かなくて。」
ぺたんと背中に体温が戻る。
獄寺君の首から下がっていたネックレス。それが肩越しに落ちてきて、オレの胸元で揺れている。
「って、納得してる場合じゃないっすね。お背中大丈夫ですか? 10代目。痕とか痣とか、なってないといいんスけど……」
「いや! もう全然平気! 大丈夫!!」
「じゃあ、続きしましょうか、宿題の。」
「う、うん。」
また離れていく気配がしたので大慌てで否定した。
全っ然大丈夫じゃない。そんな至近距離で話さないで。
獄寺君がしゃべるたび、すぐそばで肺が膨らんで息を吐き出す、人のいる気配がする。ゆらゆらと獄寺君の首飾りが揺れる。
頬が火照ってきた。
わけわかんないよ。なんか急に恥ずかしくなってきた。
「10代目? まだ解けるとこありますよ、こことか。」
獄寺君が手を伸ばして空欄を指し示す。
イエズス会の宣教師『 』がキリスト教を……って、オレはそれどころじゃない。
髪の毛とか、頬の辺りに掠めてすっごいくすぐったいんだけど、獄寺君は平気なんだろうか。
「わ、わかんない。なんか、ヒント」
「ヒントっすか? そーっすね、ええと、山本がよく使う……」
「や、やまもと?」
ぱっと頭に山本の姿が浮かんで、オレはつい助けなんか求めてしまった。
ホント、助けて山本、なんかオレ暴走しそうなんだけど。
訴えかけたら脳内の山本は笑顔でこう言った。
『いーんじゃねーの? ツナ、やりたいならやっちまえば?』
いや、言わない。
山本は言わないこんなこと言わない……いや、言うかな、なんか言いそうな気がしてきた。悪いんだけど山本、一旦帰って。オレ本当に歯止めが利かなくなりそうだ。
右手でひらひらとイメージの山本を追い払う。
「……10代目?」
リアルの獄寺君の吐息が耳にかかる。
「どうかしましたか?」
どうかしたどころじゃない。
なんで獄寺君はニブいのかな。なんでこの距離で平然としていられるかな。
オレは、思いっきりどうかしてる。
っていうか、オレが変なのか? そう言えば先に手を引っ張ったのはオレだったような気がする。
「10代目?」
「ちょ、ちょっと待って、考えるから。」
「……はい。」
「ご、獄寺君は、よく平気でいられるよね?」
後に悔やむと書いて後悔と読む。
校長先生が朝会で言いそうな言葉が頭を駆け巡る。
後悔というのは言ってしまってからする物である。
違う、言いたかったのはそんなことじゃないのに。
「あ、いや、そういう意味じゃなくて、獄寺君嫌じゃないかなっていうか、オレ、ちょっと寒かったから思わず引っ張っちゃったんだけど、だったらクーラー止めれば良かったんだよなって今思ったっていうかええと」
違う、オレが言いたかったのはそう言うことじゃなくて。
背中に感じていた重みが浮き上がる。
「ツナー!」
気まずい沈黙を打ち破ったのは母さんの声だった。
一階からだ。
「ツナー。聞こえてるー?」
何? って、普通に返そうとした声は横隔膜の辺りで引っ掛かって裏返ってしまった。
パタン、パタン。
スリッパの足音が階段を上ってくる。ああ、これは部屋のドアを開けられるパターンだ。閉め切っているとオレの部屋からリビングへは声が通らないので、母さんは遠慮なく部屋に入ってくる。
察知した獄寺君が動いた。
背中にぴゅうと冷たい風が吹き込む。それはあっという間に膨れ上がって、オレたちを引き離そうとする。
(……いやだ。)
解かれかけた獄寺君の腕を掴んだ。片手で固定して、獄寺君を背負ったままもう片手でドアを押し開ける。
腕立て伏せ状態だ。
「聞こえてるよ、何?」
「あら、聞こえてたの? 涼しくなってきたし、みんなでお買い物に行ってくるから、ツナはお留守番よろしくね。戸締まり面倒だから、二人とも一階に下りてきてくれると助かるんだけど……」
「オレ、宿題中だよ。二階にいるから。」
「そう。じゃあ、お庭に洗濯物干してあるから、それだけよろしくね。」
よろしくねって……。どーすんだよ、今から二人で留守番!?
|| STOP
言い訳反転>
当然ここからが本番なはずですが、二人っきりにするまでで力尽きました。
ていうか、個人的に主張したかった部分は「山本はきっと格ゲー弱い。キャラセンスが悪い。バサラならザビーとか使う」だったので、後は書かなくても……想像つくじゃん……。オイラが書かなくてもみんなわかるよ……さ。
ええい、獄寺の住んでる場所がはっきりしないのがいけないんだ!
同居してろよ右腕!
未完成放置。
通常ツナ獄。
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夏です。
ええと……夏って言ったら夏なの! ここ突っ込み不可!
そんな訳で夏です。
夏の健全な学生と言ったら、八月最後の一週間に溜まりまくった夏休みの課題との死闘だと思うんです。
というわけで、オレの目の前には。
国語数学理科社会英語、のワークブック。それぞれ見開き二十ページもあったりしてね。
うわ、それって全部で百回もまっさらなノートを広げなきゃいけないってことじゃん。夏休みをなんだと思ってんの。
と、百ページすべてまっさらな状態で八月二十五日に獄寺君に言ったら、初日から見開き三ページずつやってりゃ休日もありましたよ、と返されました。はい、ぐぅの音もございません。
でも夏休みの中に更に休暇を設けるとかありえないからね。あっはっは。……はぁ。
一日十五ページ? そう、ありがとう。計算速いね、獄寺君。メガネよく似合うね。有能な美人秘書みたいだね。あ、照れた? ……ハイごめんなさい。遊んでる場合じゃなかったです。これから一週間よろしくお願いします。……あーやだなあもお。
あ、でも読書感想文は終わってるんだ、オレ毎年走れメロス使い回してるから。しかも今年は同じく毎年メロス使い回してる山本と取り替えっこしたからね。ちゃんと語尾とかちょこちょこ書き換えたし、多分完璧。
あと今年は理科の自由研究も終わっている。共同研究可ってそういう意味だったんだ。持つべきものは友人って本当だな。
(……あ、最後のは結構本音だ。
三人でランボ達のプールぶん取って水遊びすんのは結構本気で楽しかった。)
(でもやっぱデータ処理は獄寺君に任せましたごめんなさい。
グラフ書いたりは手伝ったので許してください。
電卓も満足に使えなくてごめんなさい。)
「……終わらないって無理だってー。」
足利なんとかさんの上にシャーペン放り投げてオレはちゃぶ台に突っ伏した。
もはやここ数日のお約束。でも、珍しく。
「けど、もーすぐ戦国時代まできましたよー……ファイトっスじゅーだいめー」
今日は獄寺君までぐったりしているのは、オレたちが今ものすごくあほなことをしているからだ。
何って、『クーラーの室温設定30度から始めて、見開き一ページ終わったら室温設定を1度下げてよい。』とかそんなルールを作ってみたんだ。
最初はオレが問題を解くためだったんだけどね。問題解かなきゃ暑さから解放されないから。
でも、現在室温19度。
さっむい!
しかももう時刻は夕方だ。本当は窓を開けて扇風機回せばその方が快適。
地球環境にごめんなさい。明日はこんなバカはしません。いやほんとまじで。
さぁっむいってば!!
なのに、オレはまだ窓を閉め切って逆我慢大会をしていたりする。
なぜならば。
「……10代目ぇ。次のページで折り返しませんか?」
獄寺君はクーラーのリモコンを指差した。
半袖のポロシャツのオレはともかく、獄寺君はタンクトップに薄手のシャツを羽織っただけだ。この冷気が真剣にシャレにならないらしい。体育座りした上に両膝抱え込んで自分で自分を抱いている。
「……宿題の答え、見せてくれたら温度上げてもいい。」
「…………だめです。」
「じゃあ、まだ下げる。ああ、あっついなあ!」
オレは我ながらわざとらしい声を出してシャーペンを握り直した。
そう、意地になって馬鹿みたいな逆我慢大会を続けている理由はただ一つ。こんな具合になんかもう全然最初の趣旨と変わってきちゃってるからです。
だって、さぁ。
じゃあ君は何のために七月の最初の三日間でさっさと全問解いちゃったんですか。
暇つぶしかもしれないけど、嫌がらせじゃあないよね。
オレのためだよねソレ、勘違いでなきゃ。
なんだ? 最終手段は本当に最終まで出さないつもりなのか。徹夜で書き写し作業って、結構辛いんだけどな。今さっさと写してしまえば、残りわずかな夏休み、あと何日か遊びに行けるのに。獄寺君は行きたくないんだろうか。
それとももしかして獄寺君ほんとはオレのこと嫌いだったりとかするのか。
(…………ごめんなさい、今のは本当に冗談です。
忘れてください、オレは忘れます。)
オレは再び空欄だらけのノートとにらめっこする。
えーと。
この建物は金閣寺でこっちは銀閣寺です。孫悟空とは無関係なんだそうです。
オレ、千年も前のエラいヒトよりなんで金閣銀閣が孫悟空と関係ないかの方が知りたいよ。
え? 足利さんは千年も前じゃない?
えーい、年号も引き算も知るか! 年号の一番はじめが1だから全部大まかに千年前なの。
「……わかりました。西遊記は調べときますんで、金閣寺はざっくり六百年前で銀閣寺は五百年前っス。10代目。」
「いや、調べなくていいから答え見せて。」
「だめです。」
即答だし。なんだまだ元気じゃん。
ベッドの上の毛布貸してあげようかなとか思ったけどやめた。
つーかそのシャツ脱ぎやがれ。扇風機の風、直接当てるぞ、おらぁ。
……冗談です。最近オレ獄寺君の口調が感染ったよ。真似できるもん。
…………いや、本当に、今の本気じゃないから。オレ、マフィア関係ないし。
オレはページをめくる。
次いで、意地でクーラーの室温を一度下げる。
リモコンに乗せた手に、獄寺君の手が重なる。
ひんやり、冷たい。
「もう……やめませんか? 10代目。」
獄寺君の手のひらが冷たい。
リモコンより冷たい肌が白い。
白いけどあったかい。
(…………え?)
ごめんなさい。
もしかしてこれは本当に獄寺君は体調がヤバいんじゃないかと思い当たったのは、ささやかな幸福感がオレを満たした後でした。
(平気かな。)
オレは獄寺君の顔色を窺う。
獄寺君はペッタリとテーブルに突っ伏していた。
確かにテーブルの方が室温よりあったかいかもしれない。
左手だけ出して、ぴったりのオレの手に重ねている。
これは、完全に利用されてるな、オレの左手。ホッカイロか何かの代わりにされている。
クーラーの風が当たって、細い髪がはらはらとテーブルに散らばる。毛先が消しゴムのカスの上に乗っかってしまった。せっかくキレイな髪なのに汚れてしまう、と思ったけど、もうちょっと獄寺君を見ていたかったのでオレは手を引っ込めた。
蛍光灯を映して、緑の瞳の中に白い星が一つ。
姿勢はぐんにゃりしているけど、顔色はまだ平気そう。
(まだ大丈夫か。)
比較対象はビアンキ見てぶっ倒れたときの獄寺君だけど、まだ、大丈夫そう。
獄寺君と遊ぶときは慎重に。
でも、今はもうちょっと大丈夫そう。
シャーペンを放して手を伸ばして、銀の髪にくっついてしまったネズミ色の消しカスを取り払った。
「やめるって、宿題を?」
「じゃなくて……。冷房を。」
「答え。」
「だめです。」
「じゃあ続ける。」
「つか、18度って、こっから先ありませんよ。」
「じゃ、次から扇風機。」
「ええ?」
「ほら、あと三ページだから、弱中強でちょうど終わるじゃん。」
__沈黙。
「ねぇ、獄寺君、答え。」
「……ダメです。」
「さーて宿題するかぁ。」
オレ、絶対感染ったよ。このよくわかんない意地っ張り。
オレは一人で笑いを噛み殺す。獄寺君は、雨でずぶ濡れの子犬みたいな目でこっちを見ている。
うん、ごめん。これはちょっといじめすぎたかな。でも、ねえ。
さっきからリモコンの上で重なった獄寺君の手が、ぴったりくっついたまんま離れないんですが。
これはいけると思っていいですか。
(つか、そんな寒いんならこのまま勝手にリモコン押せばいいじゃん。)
手首を返して、重なっていた獄寺君の手を捕まえた。もう片手も捕まえて、引き寄せる。
オレの肩に獄寺君の腕を回して、そのまま獄寺君の身体を背中に乗せる。強制的におんぶ状態。
「、わ……」
獄寺君はちょっと驚いたような声を出して、でも逃げなかった。
獄寺君は逃げなかった。それどころか、両腕をオレの身体の前に回して、マフラーみたいに巻き付く。細い顎が肩に乗って、くすぐったい。ぴったりくっついた背中があったかい。
行けるかな、とは思ってたけど、あんまり素直にくっついてもらえたのでオレは急に恥ずかしくなった。実はこういうのはまだ慣れてない。
(だって、獄寺君あんまりくっついてきてくれたりしないしさ。)
べたべたしてるとか、いっつも一緒にいるとかリボーンなんかには冷やかされるけど、オレたちは実際はちょっと違う。獄寺君は、一緒にいてくれるけど、それ以上こっちには来てくれない。理由はよくわからない。結局、獄寺君から見たら、オレたちって10代目と右腕だから、なんだろうか。
だったらもういっそ据え膳頂いてしまえって気もするけれど、オレは獄寺君が好きなんであって右腕が好きな訳じゃないから、実行できない。それじゃあいつか、獄寺君に、オレが好きなのは沢田綱吉さんではなく10代目です、なんて言われてしまいそうな気がする。
(まさか、そんな日は来ない、とは思うけど。)
けど、自信はない。
(いや、オレ自信持ってることなんか一個もないけどね?)
結局、いつもお預け喰らっているのはオレの方だと思う。主導権も選択権もくれるけどでも、オレが欲しいのはそんなんじゃない。じゃあ何が欲しいんだろ。やることは一通りやってしまった。男同士だし、オレたちはまだ子供だし、こっから先は子供が出来る訳でも結婚する訳でもない。それでも一応、プロポーズでもしてみる? 二つ返事で一生付いてきますって言ってもらえそうだけど、そんなのが欲しい訳じゃない。右腕として一生お仕えする覚悟とか、されても困るんだ。オレが欲しいのはそういうのじゃなくて……何が欲しいんだろ。
……あ、なんだかぐるぐる考えてるうちに悲しくなってきた。
(せなか、あったかいな。)
背中が温かいので、オレは全部忘れて宿題をすることにした。
歴史は、今朝、縄文時代から始めてやっと戦国時代です。
この辺はゲームのおかげでちょっと詳しい自信がある。
ええと、織田信長と豊臣秀吉と……あれ?
「獄寺君、幸村は?」
「真田幸村は天下取ってないんで、教科書には出番はありません。」
「……じゃあ、政宗。」
「も、書く場所ありません。」
「サスケ……」
「そもそも歴史上実在が不明っス。10代目。」
じゃ、オレもう解けるところないじゃん!
そこに獄寺君が追い討ちをかける。
「あと、上杉謙信は男です。」
「さすがにそこは知ってるよ!」
思わず振り向いてツッコミを入れた。
顔が近い。冷たそうな頬の上の、色素の薄いぽあぽあした産毛まではっきり見えるほど。
危ない、ぶつかるとこだった……て言うか事故でぶつかった方が良かったな。こういう時は偶然キスしたりしちゃうのがお約束じゃないか? ていうか、今からでもできないか?
不純なことを考えて硬直したオレを、きょとんと見つめ返して獄寺君が瞬きする。
うわあ、もう……!! ぜんっぜんわかってない。ごめんね、どーせこんなこと考えてるのオレばっかだよ。
慌てて正面に向き直ったら、何かが背中でぐりっとえぐれた。
「痛っ」
「あ、スミマセン!」
背後でごそごそ獄寺君の動く気配。のしかかる体重が0になって、一瞬背中が空っぽになる。首元に回された腕も外れて、しまった、引き止め損ねた。
唇を尖らせる、よりも早く視界の右端にすとんと何かが降ってきた。
「これが当たったんスね。すみません、気が付かなくて。」
ぺたんと背中に体温が戻る。
獄寺君の首から下がっていたネックレス。それが肩越しに落ちてきて、オレの胸元で揺れている。
「って、納得してる場合じゃないっすね。お背中大丈夫ですか? 10代目。痕とか痣とか、なってないといいんスけど……」
「いや! もう全然平気! 大丈夫!!」
「じゃあ、続きしましょうか、宿題の。」
「う、うん。」
また離れていく気配がしたので大慌てで否定した。
全っ然大丈夫じゃない。そんな至近距離で話さないで。
獄寺君がしゃべるたび、すぐそばで肺が膨らんで息を吐き出す、人のいる気配がする。ゆらゆらと獄寺君の首飾りが揺れる。
頬が火照ってきた。
わけわかんないよ。なんか急に恥ずかしくなってきた。
「10代目? まだ解けるとこありますよ、こことか。」
獄寺君が手を伸ばして空欄を指し示す。
イエズス会の宣教師『 』がキリスト教を……って、オレはそれどころじゃない。
髪の毛とか、頬の辺りに掠めてすっごいくすぐったいんだけど、獄寺君は平気なんだろうか。
「わ、わかんない。なんか、ヒント」
「ヒントっすか? そーっすね、ええと、山本がよく使う……」
「や、やまもと?」
ぱっと頭に山本の姿が浮かんで、オレはつい助けなんか求めてしまった。
ホント、助けて山本、なんかオレ暴走しそうなんだけど。
訴えかけたら脳内の山本は笑顔でこう言った。
『いーんじゃねーの? ツナ、やりたいならやっちまえば?』
いや、言わない。
山本は言わないこんなこと言わない……いや、言うかな、なんか言いそうな気がしてきた。悪いんだけど山本、一旦帰って。オレ本当に歯止めが利かなくなりそうだ。
右手でひらひらとイメージの山本を追い払う。
「……10代目?」
リアルの獄寺君の吐息が耳にかかる。
「どうかしましたか?」
どうかしたどころじゃない。
なんで獄寺君はニブいのかな。なんでこの距離で平然としていられるかな。
オレは、思いっきりどうかしてる。
っていうか、オレが変なのか? そう言えば先に手を引っ張ったのはオレだったような気がする。
「10代目?」
「ちょ、ちょっと待って、考えるから。」
「……はい。」
「ご、獄寺君は、よく平気でいられるよね?」
後に悔やむと書いて後悔と読む。
校長先生が朝会で言いそうな言葉が頭を駆け巡る。
後悔というのは言ってしまってからする物である。
違う、言いたかったのはそんなことじゃないのに。
「あ、いや、そういう意味じゃなくて、獄寺君嫌じゃないかなっていうか、オレ、ちょっと寒かったから思わず引っ張っちゃったんだけど、だったらクーラー止めれば良かったんだよなって今思ったっていうかええと」
違う、オレが言いたかったのはそう言うことじゃなくて。
背中に感じていた重みが浮き上がる。
「ツナー!」
気まずい沈黙を打ち破ったのは母さんの声だった。
一階からだ。
「ツナー。聞こえてるー?」
何? って、普通に返そうとした声は横隔膜の辺りで引っ掛かって裏返ってしまった。
パタン、パタン。
スリッパの足音が階段を上ってくる。ああ、これは部屋のドアを開けられるパターンだ。閉め切っているとオレの部屋からリビングへは声が通らないので、母さんは遠慮なく部屋に入ってくる。
察知した獄寺君が動いた。
背中にぴゅうと冷たい風が吹き込む。それはあっという間に膨れ上がって、オレたちを引き離そうとする。
(……いやだ。)
解かれかけた獄寺君の腕を掴んだ。片手で固定して、獄寺君を背負ったままもう片手でドアを押し開ける。
腕立て伏せ状態だ。
「聞こえてるよ、何?」
「あら、聞こえてたの? 涼しくなってきたし、みんなでお買い物に行ってくるから、ツナはお留守番よろしくね。戸締まり面倒だから、二人とも一階に下りてきてくれると助かるんだけど……」
「オレ、宿題中だよ。二階にいるから。」
「そう。じゃあ、お庭に洗濯物干してあるから、それだけよろしくね。」
よろしくねって……。どーすんだよ、今から二人で留守番!?
|| STOP
言い訳反転>
当然ここからが本番なはずですが、二人っきりにするまでで力尽きました。
ていうか、個人的に主張したかった部分は「山本はきっと格ゲー弱い。キャラセンスが悪い。バサラならザビーとか使う」だったので、後は書かなくても……想像つくじゃん……。オイラが書かなくてもみんなわかるよ……さ。
ええい、獄寺の住んでる場所がはっきりしないのがいけないんだ!
同居してろよ右腕!
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08在庫整理第一弾。
未完成放置。
不健全注意。
>PLAY
ゆっくりと、ゆっくりと、焦らすように馴すように、幾度か身体を上下に揺らす。引き攣るような痛みがむず痒いような快感に変わっていく。ゴムかゼリーか体液か、クチュとかすかに水音がして、そろそろ頃合いだと告げる。
きわめて事務的に短く息を吐いて、必要最低限の動作で獄寺は息を整える。
「10代目、あの、肩、重くないっスか?」
「うん、大丈夫。」
問われて、ツナは穏やかに微笑んでみせた。
彼は今、アンティークのハイバックチェアにゆったりと腰掛けている。
歴代ボスが、寝室でプライベートにくつろぐために、代々受け継がれてきた椅子だ。大柄な者も多かった彼らのためにしつらえた椅子にすわると、小柄な日本人のツナは、まるで父親に抱かれる子供のようだった。子供のように、安堵した笑顔で安心しきった様子で、彼は浅く椅子に腰掛けている。その両肩を、獄寺の骨張った手が掴んでいる。ツナに比べ、はるかに白いその手の下では、やわらかなガウンにこまやかなドレープが刻まれている。ガウンの下に着込まれた夜空のように深い紺色の夜着は、常より多めに釦が外され、細いV字の間からしなやかに張りつめた胸の筋肉が見て取れた。下半身は、ほんのわずかズボンが降ろされ、ゆったりとした上着の裾から、立ち上がりかけの陰茎が垣間見えている。薄いゴム越しでも、それが朱色に色付いているのがはっきりと見て取れる。根元から先端へ、下腹部の暗褐色から、鮮やかな赤へのグラデーション。その先端は、こちらは剥き出しになった獄寺の白い双丘の間、狭い渓谷へと差し込まれている。
繰り返すが、まだ年若い、しかも東洋人としても小柄なボンゴレ10代目のボスには、この豪華な椅子は大きすぎるのだ。中央に腰掛けると、両サイドに少なからぬゆとりが生まれる。それは、獄寺が両膝を付くのに十分な空間だった。まるで、それらすべてがそうあるように設計された有機体のように、ツナはまどろむような表情でイスに身を預け、その膝の上で、浅い呼吸を繰り返しながら獄寺がゆっくりと腰を揺らしていた。
あてがわれた私室に初めて足を踏み入れたとき、ツナはキングサイズのベッドを見て、重厚なテーブルセットを見て年代物のワインが並んだワインセラーを見て、「これ、二人部屋?」と、傍らに立つ獄寺に冗談めかして笑ってみせたものだった。
「いえ、これは10代目お一人のものです。もっと経験を積んで、正式に9代目が引退なさって跡目を継いで、そしたらもっとすごい部屋だって使えるんスよ。」
「……へー……」
ツナはまるで乗り気でない返事をした。
「これだって、十分豪華すぎると思うんだけどなぁ。ホテルのスイートルームみたい。一人じゃ広すぎるよ。」
いや、乗り気でないどころか、不満があるようにさえ見えた。
「そだ、折角広いんだしさ。獄寺君もこの部屋で暮らしたら?」
声こそ冗談まじりだったが、見上げる視線はどこかあきらめたような色をたたえていた。
「……ありがたいお言葉ですけど、謹んで、辞退させていただきます。オレにも部屋はありますし、それに、オレは、あなたの部下ですから。」
「……ん。そーだったね」
ツナは顔を正面に向けた。すたすたと豪奢なベッドに向かって歩き出す。皺一つない真っ白な敷布が、獄寺の目には眩しかった。
「ま、寝返りも打ち放題だし、こんだけ広ければ散らかし放題だし、せいぜい利用させてもらおうかな。10代目特権。」
そして、ツナは乱暴にジャケットを放り投げ、ネクタイを引き抜きうつぶせにベッドにダイブして、行儀悪く踵で靴を脱ぎ飛ばした。
「おやすみ、獄寺君。」
ベッドに顔をうずめたまま、ツナはそう言った。語尾は震えていたのか、ただうつぶせたためにくぐもって聞こえたのか、獄寺にはわからなかった。
ジャケットを拾い上げ袖を伸ばしソファの背に掛ける。
ああこれも、明日からは、専属の部屋係がやるのか。
ネクタイも結び目をほどいてジャケットの上に。脱ぎ散らかされた靴は踵を揃えてベッドサイドへ。
枕元に寄っても、ツナは顔を伏せたままだった。
『じゅーだいめ』
いつも通り声をかければよかったのに、その言葉は昨日までとはまるで違う響きを持ちそうで、獄寺は何も言えなかった。
うつむくと、先ほど自分で揃えた靴が目に入った。
ああ、ボンゴレ10代目が、まさか二日連続同じ靴を履くわけにはいかないか。
身をかがめ、別な靴を用意しようと手を伸ばした。けれど、明日の朝にはそれ専用のスタッフが来る事を思い出して、結局何も手にする事は出来ないまま、獄寺は再び顔を上げた。ツナは、あいかわらずベッドに顔をうずめたままだった。
『顔上げてください、10代目。オレ、10代目の顔が見たいです。声が聞きたいです。明日が来る前に』
だが、
『じゅーだいめっ!』
その一言が今は口に出来なかった。ここは、日本じゃない。
『……ボス。』
初めて、胸の内で、獄寺はそう呼びかけた。
自分の知る限り、最高の言葉のはずだった。最高の人物に与えられる称号のはずだった。この人を、いつかそう呼ぶ事を心待ちにしていた。けれど、その人は、一人では持てあますほど大きなベッドで、敷布に顔をうずめている。
獄寺の胸を満たしたのは、高揚感ではなく、ひどく冷たい感情だった。
『……じゅーだいめ。』
呼び直すと、ほんの少し、胸に温もりが戻ってきた。顔がほころぶのが、自分でもよくわかった。
今日だけだ。
深呼吸する。肺に息を溜める。今までずっとそうしてきた予備動作。次の一言は決まっている。
「10代目!」
呼びかけると、ツナはゆっくりと顔をこちらに向けた。暗い目に自分が映っていた。鏡のように。それを見ながら獄寺は笑った。大丈夫、笑えている。
「明日、いつも通りお迎えに上がります! 学校よりも遅刻厳禁っスからね! 寝坊、しないでくださいよ!」
「……うん。努力する。」
ゆっくりとゆっくりと、ツナの目はあたたかさを取り戻していった。
「また明日、てゆか、明日からも、よろしくね。」
「ハイ!! 任せてください!」
獄寺は休息を促すにはまるでふさわしからぬ大声を出して、そしてやっと、ツナはいつもの困ったような笑顔を取り戻した。
「おやすみ。獄寺君。」
囁いて、ツナは再び目を閉じた。
その顔を見届けて、獄寺は、これっきりだ、と、心に誓った。
このお方はボスで、オレは部下で、たとえオレがどれほど功績を上げても、名実共にこの方の右腕になれても、(いや、これは仮定ではなく近い将来絶対に、なのだけれど、)でも、オレは、この人の部下なのだ。そうありたい。この人を、誰もが認める、最高のボスにする。してみせる。
その事に、一番最初に気がついたのは、このオレだ。
それがオレの誇りだ。あの日から、それこそがオレの望みだった。
だから、今日が最後だ。この部屋に立ち入るのも。この、優しい寝顔を、けれどどうしようもなく胸が締め付けられる、この寝顔を見るのも。
「おやすみなさい。10代目。」
囁いて、目を閉じて、まぶたの裏にその人の顔が浮かぶ事を確かめて、獄寺はボンゴレ10代目ボスの居室を後にした。
確かに、そう決意したのだ。
「…っく、……ぁ、………」
声を殺しながら、獄寺は抜き差しするテンポを速めていく。向かい合わせに、ツナの両肩に手をかけてはいるけれど、そちらに体重を預けるのは気が引けた。なけなしのプライドの問題。獄寺は、下肢の力だけで状態を上下に揺り動かす。腹圧を調整しながら、身体を引き上げて自分の身体で彼のものを扱き上げる。この行為が好きだった。ツナが、心地良さそうに目を細める。それだけで、獄寺の心は満たされる。なのに、上昇を終えた身体の方はどうしようもない喪失感を訴えて、立ち上げたばかりの上体をまたすぐ沈めてしまう。ぷつりと再び繰り返される挿入の痛み。身体が割かれていく。押し開かれていく。けれど、ひとたび口火を切れば、その先には本来あるはずのない空間が用意されていて、空っぽだったその場所があるべきもので満たされていく。どうしようもなく身体が震える。声が漏れる。これは歓喜だ。本来ゆるされるはずのない喜びだ。半ば自身を呪いながらも、下降していく身体は止められない。そうしてすべてを体内に埋めると、またあの顔が見たくて、未だ喜びに震える下肢を叱咤して獄寺は腰を浮かしていく。
こんな事ばかり繰り返している。
事の始まりは、終業間際に見たツナの手元の書類だった。
明日は何度目かの大規模な幹部会議で、ツナが手にしていたのはそこで読み上げる提言の草稿だ。未だこの国の言葉に不慣れな彼は、細かなアクセントや抑揚の強弱を、彼なりの記号で原稿の上に書き込んでいる。そのなかに一カ所、間違っている部分が目についた。
指摘しようか。
と同時に、何も今、とも思った。
小さなミスだ。明日の朝でも間に合う。間に合わなくとも、会議では隣に座るのだ、その場でこっそり指摘する事だって出来る。なにより、ボンゴレ10代目ボスの発言だ。小さなイントネーションの間違いぐらいなんだ。この人がそう読めばそれが正しい発音になる。それぐらいの気概がなくてどうする。右腕たるこのオレが。失笑でもしようヤツがいたらぶっ飛ばしてやる。今はそんな事より、明日のために10代目を早く休ませて差し上げる事の方が重要だ。最優先だ。
だから、獄寺は原稿に付いてはあえて触れず、今日は早めに切り上げましょう、と、そう言って執務室を後にしたのだ。二人で部屋を出て、軽い別れの挨拶をして、ツナの背を見送って、自分も踵を返して自室に戻って、早く休もうと服を脱いでシャワーを浴びて、その間ずっと、アルファベットの上の手書きのイントネーション記号のことを考えていた。
本当に些細な、とるに足らないミスなのだ。でも、まちがっている。まちがってますよ、と、指摘できる。どうしても気になって、と、言いに行くことができる。会いに行くことができる。10代目に会える。
そう思うと、居ても立ってもいられなかった。
辞めるんじゃなかったのかよ。アレで最後じゃなかったのか?
毒づいたら、でもこれは仕事だと反論が返ってきた。
仕事? 明日でいいって決めたのは誰だよ。休息優先じゃなかったのかよ。
でも、決めたのはオレだ。今日でもいい。今でもいい。今ならまだきっと起きていらっしゃる。会いに行ける。会える。10代目に会える。
ガン、と一発、獄寺はシャワールームの壁を叩いた。
馬鹿かオレは。口実だ。結局ただ会いたいだけじゃないか。10代目にお会いしたいだけだ。
言葉にすると、あれだけ脳裏を占めていたは彼の字は彼の顔に見事にすり替えられてしまった。
本当に、会いたいだけだ。会いたいだけだから、こんな気持ちじゃ会いには行けない。会いに行けない。
会いに行けない。会いに行けない、あいにいけない、あいにいきたい、あいたい。会いたい。10代目に会いたい。あいたい。
同じ言葉がぐるぐると巡る。
同じ言葉しかでてこないから、余計に会いに行けない。
ばっかじゃねーの!
お前は、右腕に、なるんじゃなかったのかよ!?
毒吐いて、罵って、それでもまだ会いたい。自棄になって自慰まがいの行為までして、荒い息を吐いて、それでもまだ収まらない。どうしようもない。救いようもない。愚かで惨めでみっともなくて、こんなやつが、『右腕』?
汚れた手を洗い流して、もう一度壁に叩き付けて、こんな手でなれるものかとぎりぎり奥歯を噛み締める。
それでも、出てくる言葉は一つだけだった。
ああもう、どうしようもない。
『会いに行くだけだ。』
新しいシャツに袖を通して、ぞんざいに髪を乾かして、いかにも急な用件を思い出した風を装って、獄寺は自室を後にした。自戒を繰り返す。
本当に、ただ会いに行くだけだ。
そんな『本当』はどこにも存在しないだろうと知りながら。
そして結局。今や綺麗にプレスされていたパンツは皺だらけになって床に脱ぎ捨てられ、白いシャツの裾には粘着質の体液がべっとりと付着している。
自嘲の声も、スーツとともにどこかに投げ捨ててしまった。もう目の前の人の事しか考えられない。
獄寺は一心に身体を揺らす。上体を反らすと、自分の内部のよいところも擦れて勝手に甘ったるい吐息が漏れた。
「そんなに気持ちいいの?」
くすっとツナが笑う。
「ね? 獄寺君」
上気した頬に触れて、半開きになった口の端に親指を差し入れる。そのままつうっと薄い皮膚の上をなぞると、それだけで内部の締め付けが一段きつくなる。獄寺は動きを止め、眉をひそめて快楽の波が過ぎるのを待つ。そして、舌先でツナの指を押し返すと、逆に問い返した。
「10代目は、よくないんスか?」
平然を装って、けれどそのたった一言を言い返すために、彼がどれほどの躊躇を踏み越えたか。これだけ深くつながっていれば、ツナには筒抜けだった。
『10代目』の質問に、はいでもいいえでもなく質問で返すなんて。
|| STOP
言い訳反転>
一晩でどこまで書けるかな大会で、書き終わらなかったヤツです。
大人は、背景考えて手が止まるとなかなか書けないです。
続きは頭にあるんだけど、どこまで説明したもんだか悩んでしまう。
未完成放置。
不健全注意。
>PLAY
ゆっくりと、ゆっくりと、焦らすように馴すように、幾度か身体を上下に揺らす。引き攣るような痛みがむず痒いような快感に変わっていく。ゴムかゼリーか体液か、クチュとかすかに水音がして、そろそろ頃合いだと告げる。
きわめて事務的に短く息を吐いて、必要最低限の動作で獄寺は息を整える。
「10代目、あの、肩、重くないっスか?」
「うん、大丈夫。」
問われて、ツナは穏やかに微笑んでみせた。
彼は今、アンティークのハイバックチェアにゆったりと腰掛けている。
歴代ボスが、寝室でプライベートにくつろぐために、代々受け継がれてきた椅子だ。大柄な者も多かった彼らのためにしつらえた椅子にすわると、小柄な日本人のツナは、まるで父親に抱かれる子供のようだった。子供のように、安堵した笑顔で安心しきった様子で、彼は浅く椅子に腰掛けている。その両肩を、獄寺の骨張った手が掴んでいる。ツナに比べ、はるかに白いその手の下では、やわらかなガウンにこまやかなドレープが刻まれている。ガウンの下に着込まれた夜空のように深い紺色の夜着は、常より多めに釦が外され、細いV字の間からしなやかに張りつめた胸の筋肉が見て取れた。下半身は、ほんのわずかズボンが降ろされ、ゆったりとした上着の裾から、立ち上がりかけの陰茎が垣間見えている。薄いゴム越しでも、それが朱色に色付いているのがはっきりと見て取れる。根元から先端へ、下腹部の暗褐色から、鮮やかな赤へのグラデーション。その先端は、こちらは剥き出しになった獄寺の白い双丘の間、狭い渓谷へと差し込まれている。
繰り返すが、まだ年若い、しかも東洋人としても小柄なボンゴレ10代目のボスには、この豪華な椅子は大きすぎるのだ。中央に腰掛けると、両サイドに少なからぬゆとりが生まれる。それは、獄寺が両膝を付くのに十分な空間だった。まるで、それらすべてがそうあるように設計された有機体のように、ツナはまどろむような表情でイスに身を預け、その膝の上で、浅い呼吸を繰り返しながら獄寺がゆっくりと腰を揺らしていた。
あてがわれた私室に初めて足を踏み入れたとき、ツナはキングサイズのベッドを見て、重厚なテーブルセットを見て年代物のワインが並んだワインセラーを見て、「これ、二人部屋?」と、傍らに立つ獄寺に冗談めかして笑ってみせたものだった。
「いえ、これは10代目お一人のものです。もっと経験を積んで、正式に9代目が引退なさって跡目を継いで、そしたらもっとすごい部屋だって使えるんスよ。」
「……へー……」
ツナはまるで乗り気でない返事をした。
「これだって、十分豪華すぎると思うんだけどなぁ。ホテルのスイートルームみたい。一人じゃ広すぎるよ。」
いや、乗り気でないどころか、不満があるようにさえ見えた。
「そだ、折角広いんだしさ。獄寺君もこの部屋で暮らしたら?」
声こそ冗談まじりだったが、見上げる視線はどこかあきらめたような色をたたえていた。
「……ありがたいお言葉ですけど、謹んで、辞退させていただきます。オレにも部屋はありますし、それに、オレは、あなたの部下ですから。」
「……ん。そーだったね」
ツナは顔を正面に向けた。すたすたと豪奢なベッドに向かって歩き出す。皺一つない真っ白な敷布が、獄寺の目には眩しかった。
「ま、寝返りも打ち放題だし、こんだけ広ければ散らかし放題だし、せいぜい利用させてもらおうかな。10代目特権。」
そして、ツナは乱暴にジャケットを放り投げ、ネクタイを引き抜きうつぶせにベッドにダイブして、行儀悪く踵で靴を脱ぎ飛ばした。
「おやすみ、獄寺君。」
ベッドに顔をうずめたまま、ツナはそう言った。語尾は震えていたのか、ただうつぶせたためにくぐもって聞こえたのか、獄寺にはわからなかった。
ジャケットを拾い上げ袖を伸ばしソファの背に掛ける。
ああこれも、明日からは、専属の部屋係がやるのか。
ネクタイも結び目をほどいてジャケットの上に。脱ぎ散らかされた靴は踵を揃えてベッドサイドへ。
枕元に寄っても、ツナは顔を伏せたままだった。
『じゅーだいめ』
いつも通り声をかければよかったのに、その言葉は昨日までとはまるで違う響きを持ちそうで、獄寺は何も言えなかった。
うつむくと、先ほど自分で揃えた靴が目に入った。
ああ、ボンゴレ10代目が、まさか二日連続同じ靴を履くわけにはいかないか。
身をかがめ、別な靴を用意しようと手を伸ばした。けれど、明日の朝にはそれ専用のスタッフが来る事を思い出して、結局何も手にする事は出来ないまま、獄寺は再び顔を上げた。ツナは、あいかわらずベッドに顔をうずめたままだった。
『顔上げてください、10代目。オレ、10代目の顔が見たいです。声が聞きたいです。明日が来る前に』
だが、
『じゅーだいめっ!』
その一言が今は口に出来なかった。ここは、日本じゃない。
『……ボス。』
初めて、胸の内で、獄寺はそう呼びかけた。
自分の知る限り、最高の言葉のはずだった。最高の人物に与えられる称号のはずだった。この人を、いつかそう呼ぶ事を心待ちにしていた。けれど、その人は、一人では持てあますほど大きなベッドで、敷布に顔をうずめている。
獄寺の胸を満たしたのは、高揚感ではなく、ひどく冷たい感情だった。
『……じゅーだいめ。』
呼び直すと、ほんの少し、胸に温もりが戻ってきた。顔がほころぶのが、自分でもよくわかった。
今日だけだ。
深呼吸する。肺に息を溜める。今までずっとそうしてきた予備動作。次の一言は決まっている。
「10代目!」
呼びかけると、ツナはゆっくりと顔をこちらに向けた。暗い目に自分が映っていた。鏡のように。それを見ながら獄寺は笑った。大丈夫、笑えている。
「明日、いつも通りお迎えに上がります! 学校よりも遅刻厳禁っスからね! 寝坊、しないでくださいよ!」
「……うん。努力する。」
ゆっくりとゆっくりと、ツナの目はあたたかさを取り戻していった。
「また明日、てゆか、明日からも、よろしくね。」
「ハイ!! 任せてください!」
獄寺は休息を促すにはまるでふさわしからぬ大声を出して、そしてやっと、ツナはいつもの困ったような笑顔を取り戻した。
「おやすみ。獄寺君。」
囁いて、ツナは再び目を閉じた。
その顔を見届けて、獄寺は、これっきりだ、と、心に誓った。
このお方はボスで、オレは部下で、たとえオレがどれほど功績を上げても、名実共にこの方の右腕になれても、(いや、これは仮定ではなく近い将来絶対に、なのだけれど、)でも、オレは、この人の部下なのだ。そうありたい。この人を、誰もが認める、最高のボスにする。してみせる。
その事に、一番最初に気がついたのは、このオレだ。
それがオレの誇りだ。あの日から、それこそがオレの望みだった。
だから、今日が最後だ。この部屋に立ち入るのも。この、優しい寝顔を、けれどどうしようもなく胸が締め付けられる、この寝顔を見るのも。
「おやすみなさい。10代目。」
囁いて、目を閉じて、まぶたの裏にその人の顔が浮かぶ事を確かめて、獄寺はボンゴレ10代目ボスの居室を後にした。
確かに、そう決意したのだ。
「…っく、……ぁ、………」
声を殺しながら、獄寺は抜き差しするテンポを速めていく。向かい合わせに、ツナの両肩に手をかけてはいるけれど、そちらに体重を預けるのは気が引けた。なけなしのプライドの問題。獄寺は、下肢の力だけで状態を上下に揺り動かす。腹圧を調整しながら、身体を引き上げて自分の身体で彼のものを扱き上げる。この行為が好きだった。ツナが、心地良さそうに目を細める。それだけで、獄寺の心は満たされる。なのに、上昇を終えた身体の方はどうしようもない喪失感を訴えて、立ち上げたばかりの上体をまたすぐ沈めてしまう。ぷつりと再び繰り返される挿入の痛み。身体が割かれていく。押し開かれていく。けれど、ひとたび口火を切れば、その先には本来あるはずのない空間が用意されていて、空っぽだったその場所があるべきもので満たされていく。どうしようもなく身体が震える。声が漏れる。これは歓喜だ。本来ゆるされるはずのない喜びだ。半ば自身を呪いながらも、下降していく身体は止められない。そうしてすべてを体内に埋めると、またあの顔が見たくて、未だ喜びに震える下肢を叱咤して獄寺は腰を浮かしていく。
こんな事ばかり繰り返している。
事の始まりは、終業間際に見たツナの手元の書類だった。
明日は何度目かの大規模な幹部会議で、ツナが手にしていたのはそこで読み上げる提言の草稿だ。未だこの国の言葉に不慣れな彼は、細かなアクセントや抑揚の強弱を、彼なりの記号で原稿の上に書き込んでいる。そのなかに一カ所、間違っている部分が目についた。
指摘しようか。
と同時に、何も今、とも思った。
小さなミスだ。明日の朝でも間に合う。間に合わなくとも、会議では隣に座るのだ、その場でこっそり指摘する事だって出来る。なにより、ボンゴレ10代目ボスの発言だ。小さなイントネーションの間違いぐらいなんだ。この人がそう読めばそれが正しい発音になる。それぐらいの気概がなくてどうする。右腕たるこのオレが。失笑でもしようヤツがいたらぶっ飛ばしてやる。今はそんな事より、明日のために10代目を早く休ませて差し上げる事の方が重要だ。最優先だ。
だから、獄寺は原稿に付いてはあえて触れず、今日は早めに切り上げましょう、と、そう言って執務室を後にしたのだ。二人で部屋を出て、軽い別れの挨拶をして、ツナの背を見送って、自分も踵を返して自室に戻って、早く休もうと服を脱いでシャワーを浴びて、その間ずっと、アルファベットの上の手書きのイントネーション記号のことを考えていた。
本当に些細な、とるに足らないミスなのだ。でも、まちがっている。まちがってますよ、と、指摘できる。どうしても気になって、と、言いに行くことができる。会いに行くことができる。10代目に会える。
そう思うと、居ても立ってもいられなかった。
辞めるんじゃなかったのかよ。アレで最後じゃなかったのか?
毒づいたら、でもこれは仕事だと反論が返ってきた。
仕事? 明日でいいって決めたのは誰だよ。休息優先じゃなかったのかよ。
でも、決めたのはオレだ。今日でもいい。今でもいい。今ならまだきっと起きていらっしゃる。会いに行ける。会える。10代目に会える。
ガン、と一発、獄寺はシャワールームの壁を叩いた。
馬鹿かオレは。口実だ。結局ただ会いたいだけじゃないか。10代目にお会いしたいだけだ。
言葉にすると、あれだけ脳裏を占めていたは彼の字は彼の顔に見事にすり替えられてしまった。
本当に、会いたいだけだ。会いたいだけだから、こんな気持ちじゃ会いには行けない。会いに行けない。
会いに行けない。会いに行けない、あいにいけない、あいにいきたい、あいたい。会いたい。10代目に会いたい。あいたい。
同じ言葉がぐるぐると巡る。
同じ言葉しかでてこないから、余計に会いに行けない。
ばっかじゃねーの!
お前は、右腕に、なるんじゃなかったのかよ!?
毒吐いて、罵って、それでもまだ会いたい。自棄になって自慰まがいの行為までして、荒い息を吐いて、それでもまだ収まらない。どうしようもない。救いようもない。愚かで惨めでみっともなくて、こんなやつが、『右腕』?
汚れた手を洗い流して、もう一度壁に叩き付けて、こんな手でなれるものかとぎりぎり奥歯を噛み締める。
それでも、出てくる言葉は一つだけだった。
ああもう、どうしようもない。
『会いに行くだけだ。』
新しいシャツに袖を通して、ぞんざいに髪を乾かして、いかにも急な用件を思い出した風を装って、獄寺は自室を後にした。自戒を繰り返す。
本当に、ただ会いに行くだけだ。
そんな『本当』はどこにも存在しないだろうと知りながら。
そして結局。今や綺麗にプレスされていたパンツは皺だらけになって床に脱ぎ捨てられ、白いシャツの裾には粘着質の体液がべっとりと付着している。
自嘲の声も、スーツとともにどこかに投げ捨ててしまった。もう目の前の人の事しか考えられない。
獄寺は一心に身体を揺らす。上体を反らすと、自分の内部のよいところも擦れて勝手に甘ったるい吐息が漏れた。
「そんなに気持ちいいの?」
くすっとツナが笑う。
「ね? 獄寺君」
上気した頬に触れて、半開きになった口の端に親指を差し入れる。そのままつうっと薄い皮膚の上をなぞると、それだけで内部の締め付けが一段きつくなる。獄寺は動きを止め、眉をひそめて快楽の波が過ぎるのを待つ。そして、舌先でツナの指を押し返すと、逆に問い返した。
「10代目は、よくないんスか?」
平然を装って、けれどそのたった一言を言い返すために、彼がどれほどの躊躇を踏み越えたか。これだけ深くつながっていれば、ツナには筒抜けだった。
『10代目』の質問に、はいでもいいえでもなく質問で返すなんて。
|| STOP
言い訳反転>
一晩でどこまで書けるかな大会で、書き終わらなかったヤツです。
大人は、背景考えて手が止まるとなかなか書けないです。
続きは頭にあるんだけど、どこまで説明したもんだか悩んでしまう。
とてもきもちわるい妄想です。
構想メモで推敲してません。
前提。
同性婚が一般的に認識されている。(現実の国際結婚レベル)
そのため養子制度、代理母出産などの生殖医療の利用も一般的となっている。(不妊治療、出産の高齢化等を背景とし、現実の専業主婦か共働きかぐらいに一般的。)
よって、家族観の変化により近年では複数のパートナーを持つことも個人の自由とされ倫理的には批判されない。(現実の同性愛レベル)
というパラレルな世界観で。
なおかつ
ボンゴレその他の『能力』は自然出産でなければ遺伝しないという設定で。
大人ツナ獄マフィアなお世継ぎ騒動書きたいなあ。
以下構想メモ的妄想。
>PLAY
__11代目が必要なんです。
獄寺は繰り返した。
「だから。なんと言われようと、オレはボンゴレなんてオレの代で潰すつもりだよ。」
「10代目がそのおつもりならこっちも異を唱えるつもりはありません。でも、仮にそのおつもりでも11代目候補は必要です。」
「君はなんでそんなにオレを女性と結婚させたがるの? 妻を持て子を生せ家庭を築けなんて今時老頭だって言わないよ。」
「言わないんじゃなくて言えないんです。ご自分を誰だと思ってるんですか。それに、いくら10代目相手でも状況が逼迫してくれば奴らだって黙ってませんよ。」
「だから先んじて君が心配してくれてるんだ? 気が利くね。」
「10代目、話を……」
「話? 恋人に他の誰かとの結婚を促されても笑って話を聞けるほどオレはお人好しじゃないよ。」
「……オレはあなたのパートナーじゃありません。」
「そうだね。君は公表もさせてくれない。オレはサインももらえてない。ボンゴレ10代目は腹心の部下に熱をあげてて何度プロポーズを断られてもまだ諦めきれなくて、その醜聞も右腕当人に処理させてるんだ。オレ、格好悪すぎない?」
乾いた笑い声が漏れた。
「ともかく、何度言われようと11代目を作るつもりもないし、君以外をパートナーにするつもりもないよ。」
「ですが、10代目__」
「しつこいな。」
訴えかける獄寺の視線を、逆にツナが搦めとる。ネクタイを引き掴んで顔を寄せて、ささやく。
「そんなに必要なら、今夜、中にいっぱい出してあげるから、それでクローンでも造れば?」
彼は蹲って頭を抱えていた。
「あー、それは……やっちまったな。あいつ、恋人より右腕でありたいんだもんな。10代目にはそれが有利なんて思ったら、やりかねない。」
「そうだよ、だから取り消したんだ、言い過ぎたって。オレ取り消したんだよ、山本。そりゃもう本気でソッコー取り消したんだけど、だけどでも獄寺君だし、相手はあの獄寺君だし聞いてないし、聞く耳持ってないし、言い過ぎたんだなんて忘れてくれる訳がないし……」
あああああ、と、ツナは呻いた。
「なんでオレあんなこと言っちゃったんだろ。」
「なんでってそりゃ、腹立ててたからだろ。」
……そうその通り。まるで好きじゃないみたいなふりをする恋人(本人は否定)にツナはしびれを切らせたのだ。
「お前ら正式に結婚はしてないけどさ、長い付き合いだろ、一回ぐらいしてみたらいいんじゃねえの。派手に夫婦喧嘩。」
「……獄寺君とじゃ喧嘩にならない。」
ツナはまたため息をつく。
「優しくしたいのに、なんでオレいっつも傷つけるようなこと言っちゃうのかなあ。」
「ツナが、そう考えてるから喧嘩にならないんじゃねーの? 獄寺はそんなにやわじゃねーだろ。」
「それは、ごめん山本、オレだってわざわざ指摘してくれなくてもわかってるよ。でもその上で、世界でオレだけは獄寺君のこと絶望的に傷つけられる自信があるんだ。だから、優しくしたいんだ。」
「……なんだ。ツナあんまりへこんでねーのな。結局のろけかよ。」
「のろけだよ。この程度で獄寺君がオレのこと嫌いになると思えないもん。だから、今頃オレを怒らせたって一人でいじけてるから、オレはどーやって機嫌治してあげればいいのかって困ってるんだ。」
優しくしてあげたい。めんどくさいこと色々抱えている人だから、笑っていて欲しい。笑っていて欲しいのに、無理して笑っているのを見ると泣かせたくなる。
なんで他の人と結婚しろなんて言うの? ボンゴレ存続のため? そんなの嘘だろ? 素直にオレのこと好きだっていってよ。不安も悪夢も吹き飛ばしてあげるから。君に、それをしてあげられるのは、この世にオレ以外いないと思うよ? 逃げないでよ。オレを信じてよ。そうでなきゃ、また君にひどいこと言いそうだ。オレ、ぜんっぜんダメツナなんだからさ。優しくしたくても、我慢には限界がある。
「ほんと、なんでうまく行かないのかな。」
ふいっと、ツナは背後で黙って知らんぷりを決め込んでいた人物に顔を向けた。
「ね? 雲雀さんでさえ、山本には優しくできるのにね?」
「……ちょっと、」
笑顔に殺気が答える。一瞬頬に緋が差して、霧散する。
「僕に話を振らないでくれる?
僕は君たちの閨での上下関係なんか心底興味ないんだけど。
大体なんで僕の敷地でそんなつまらない話をしているの?」
「そりゃもちろん。」
にやっと笑って山本が言った。
「ツナに言えないぐらいに詰まったら、獄寺はいつかの借りを担保に雲雀に泣きつきにくるから。」
よろしくな、最終ストッパー。
山本の笑顔に雲雀は渋面で答える。
「あのバカは、ここに来ることはあっても泣きついたりなんかしないよ。偉そうに交渉を始めるだけだ。」
ああやっぱり、二人には彼はそう見えているんだ。
同じ見解を共有している二人をツナは羨ましく思う。そして。
__獄寺君の弱さを知っているのは、やっぱりオレだけなんだ。
ツナは、秘かな優越感に酔う。
オレだけなんだ。だから、いつか、
言って欲しいよ。オレのこと好きだって。
一緒にいたいんだ。一緒に暮らして、オレは世界中の人にこれがオレの好きな人ですって言って、君には、君がなれなかった、愛する二人に育てられた子供を見せてあげたい。
君にあげたいものは、ごめんね、オレの目的のために叶えてあげられないけど。
でもやっぱり君とじゃなきゃ意味がないんだよ、他の誰かとのなんか、たとえ君の望みでも、オレは君に見せたくないよ。どうやったら、わかってもらえるかな。どうして伝わらないのかな。君の絡まりあった悲しいを、オレは解いてあげたいのに。
「オレ、どんな顔して会えばいいと思う?」
ぽつりとツナは呟いた。
「抱きしめて、泣き出すまで甘やかしてあげたいけど、オレ、取り返しのつかないこと言っちゃったかな。」
君が好きなんだ。
君には幸せで居て欲しいんだ。
どうして、こんなにうまく行かないんだろう。
|| STOP... or to be continued?
大人ツナ獄を考えるとこのノリになってしまう。
もうオリジナルでやれとも思うし、
でも京子ちゃんやハルも絡めてもっとどろどろに書きたいとも思う。
ちなみに続きを書く場合、女体化展開はありません。
どうせまた獄寺をぼろ泣きさせておしまいです。
マンネリー!
構想メモで推敲してません。
前提。
同性婚が一般的に認識されている。(現実の国際結婚レベル)
そのため養子制度、代理母出産などの生殖医療の利用も一般的となっている。(不妊治療、出産の高齢化等を背景とし、現実の専業主婦か共働きかぐらいに一般的。)
よって、家族観の変化により近年では複数のパートナーを持つことも個人の自由とされ倫理的には批判されない。(現実の同性愛レベル)
というパラレルな世界観で。
なおかつ
ボンゴレその他の『能力』は自然出産でなければ遺伝しないという設定で。
大人ツナ獄マフィアなお世継ぎ騒動書きたいなあ。
以下構想メモ的妄想。
>PLAY
__11代目が必要なんです。
獄寺は繰り返した。
「だから。なんと言われようと、オレはボンゴレなんてオレの代で潰すつもりだよ。」
「10代目がそのおつもりならこっちも異を唱えるつもりはありません。でも、仮にそのおつもりでも11代目候補は必要です。」
「君はなんでそんなにオレを女性と結婚させたがるの? 妻を持て子を生せ家庭を築けなんて今時老頭だって言わないよ。」
「言わないんじゃなくて言えないんです。ご自分を誰だと思ってるんですか。それに、いくら10代目相手でも状況が逼迫してくれば奴らだって黙ってませんよ。」
「だから先んじて君が心配してくれてるんだ? 気が利くね。」
「10代目、話を……」
「話? 恋人に他の誰かとの結婚を促されても笑って話を聞けるほどオレはお人好しじゃないよ。」
「……オレはあなたのパートナーじゃありません。」
「そうだね。君は公表もさせてくれない。オレはサインももらえてない。ボンゴレ10代目は腹心の部下に熱をあげてて何度プロポーズを断られてもまだ諦めきれなくて、その醜聞も右腕当人に処理させてるんだ。オレ、格好悪すぎない?」
乾いた笑い声が漏れた。
「ともかく、何度言われようと11代目を作るつもりもないし、君以外をパートナーにするつもりもないよ。」
「ですが、10代目__」
「しつこいな。」
訴えかける獄寺の視線を、逆にツナが搦めとる。ネクタイを引き掴んで顔を寄せて、ささやく。
「そんなに必要なら、今夜、中にいっぱい出してあげるから、それでクローンでも造れば?」
彼は蹲って頭を抱えていた。
「あー、それは……やっちまったな。あいつ、恋人より右腕でありたいんだもんな。10代目にはそれが有利なんて思ったら、やりかねない。」
「そうだよ、だから取り消したんだ、言い過ぎたって。オレ取り消したんだよ、山本。そりゃもう本気でソッコー取り消したんだけど、だけどでも獄寺君だし、相手はあの獄寺君だし聞いてないし、聞く耳持ってないし、言い過ぎたんだなんて忘れてくれる訳がないし……」
あああああ、と、ツナは呻いた。
「なんでオレあんなこと言っちゃったんだろ。」
「なんでってそりゃ、腹立ててたからだろ。」
……そうその通り。まるで好きじゃないみたいなふりをする恋人(本人は否定)にツナはしびれを切らせたのだ。
「お前ら正式に結婚はしてないけどさ、長い付き合いだろ、一回ぐらいしてみたらいいんじゃねえの。派手に夫婦喧嘩。」
「……獄寺君とじゃ喧嘩にならない。」
ツナはまたため息をつく。
「優しくしたいのに、なんでオレいっつも傷つけるようなこと言っちゃうのかなあ。」
「ツナが、そう考えてるから喧嘩にならないんじゃねーの? 獄寺はそんなにやわじゃねーだろ。」
「それは、ごめん山本、オレだってわざわざ指摘してくれなくてもわかってるよ。でもその上で、世界でオレだけは獄寺君のこと絶望的に傷つけられる自信があるんだ。だから、優しくしたいんだ。」
「……なんだ。ツナあんまりへこんでねーのな。結局のろけかよ。」
「のろけだよ。この程度で獄寺君がオレのこと嫌いになると思えないもん。だから、今頃オレを怒らせたって一人でいじけてるから、オレはどーやって機嫌治してあげればいいのかって困ってるんだ。」
優しくしてあげたい。めんどくさいこと色々抱えている人だから、笑っていて欲しい。笑っていて欲しいのに、無理して笑っているのを見ると泣かせたくなる。
なんで他の人と結婚しろなんて言うの? ボンゴレ存続のため? そんなの嘘だろ? 素直にオレのこと好きだっていってよ。不安も悪夢も吹き飛ばしてあげるから。君に、それをしてあげられるのは、この世にオレ以外いないと思うよ? 逃げないでよ。オレを信じてよ。そうでなきゃ、また君にひどいこと言いそうだ。オレ、ぜんっぜんダメツナなんだからさ。優しくしたくても、我慢には限界がある。
「ほんと、なんでうまく行かないのかな。」
ふいっと、ツナは背後で黙って知らんぷりを決め込んでいた人物に顔を向けた。
「ね? 雲雀さんでさえ、山本には優しくできるのにね?」
「……ちょっと、」
笑顔に殺気が答える。一瞬頬に緋が差して、霧散する。
「僕に話を振らないでくれる?
僕は君たちの閨での上下関係なんか心底興味ないんだけど。
大体なんで僕の敷地でそんなつまらない話をしているの?」
「そりゃもちろん。」
にやっと笑って山本が言った。
「ツナに言えないぐらいに詰まったら、獄寺はいつかの借りを担保に雲雀に泣きつきにくるから。」
よろしくな、最終ストッパー。
山本の笑顔に雲雀は渋面で答える。
「あのバカは、ここに来ることはあっても泣きついたりなんかしないよ。偉そうに交渉を始めるだけだ。」
ああやっぱり、二人には彼はそう見えているんだ。
同じ見解を共有している二人をツナは羨ましく思う。そして。
__獄寺君の弱さを知っているのは、やっぱりオレだけなんだ。
ツナは、秘かな優越感に酔う。
オレだけなんだ。だから、いつか、
言って欲しいよ。オレのこと好きだって。
一緒にいたいんだ。一緒に暮らして、オレは世界中の人にこれがオレの好きな人ですって言って、君には、君がなれなかった、愛する二人に育てられた子供を見せてあげたい。
君にあげたいものは、ごめんね、オレの目的のために叶えてあげられないけど。
でもやっぱり君とじゃなきゃ意味がないんだよ、他の誰かとのなんか、たとえ君の望みでも、オレは君に見せたくないよ。どうやったら、わかってもらえるかな。どうして伝わらないのかな。君の絡まりあった悲しいを、オレは解いてあげたいのに。
「オレ、どんな顔して会えばいいと思う?」
ぽつりとツナは呟いた。
「抱きしめて、泣き出すまで甘やかしてあげたいけど、オレ、取り返しのつかないこと言っちゃったかな。」
君が好きなんだ。
君には幸せで居て欲しいんだ。
どうして、こんなにうまく行かないんだろう。
|| STOP... or to be continued?
大人ツナ獄を考えるとこのノリになってしまう。
もうオリジナルでやれとも思うし、
でも京子ちゃんやハルも絡めてもっとどろどろに書きたいとも思う。
ちなみに続きを書く場合、女体化展開はありません。
どうせまた獄寺をぼろ泣きさせておしまいです。
マンネリー!
夜中にノックの音がして、開けたらハヤトが立っていた。
「入ってもいいか?」
いつもは居丈高なガキが今日に限って妙に殊勝な態度なので、どうかしたのかと考えていたら言い訳する様にまたハヤトは口を開く。
「ニーナは、今日はいないんだ。家に帰ってる。」
ニーナというのはハヤト付きのメイドだ。子供がいるとは思えないほど若くていい女で、俺も仲良くさせてもらっている。ハヤトほどじゃあないが。
そういえばそろそろ息子の誕生日だと言っていた。
「……かあさまは、あたまがいたいからだめだって。」
俯くと、綺麗に切りそろえられた髪が揺れて微かに音を立てた。丸っこい手でぎゅうと開きかけのドアを掴む。それから、ぱっと思い出した様に顔を上げた。
「お前は、行かなくていいぞ。薬が要るほどじゃないって。本当に、行かなくていいからな。かあさまはとうさまのなんだから、お前が入る隙なんて無いんだからな。」
「へーへー。分かった、行きませんよ。」
いくら俺でも、雇い主の本妻にまで手を出そうとは思わない。今のところ間に合っているし、正直、この家は遊びで手を出すには厄介だ。
その厄介の申し子は、それを知ってか知らずか、また俯いて口の端を噛んで、ぽつりと呟いた。
「なあ、入ってもいいか? シャマル。」
この家は広く入り組んでいるので、俺がこのドアを閉ざしても、この子供は自分の部屋に帰らずそっと屋敷中のドアを(寝静まって誰も開けてはくれないドアを)ノックして回るのだろう。一晩そうしてすごせる程度には、この屋敷は広く入り組んでいる。
「……おねしょすんなよ、隼人坊ちゃま。」
「なっ、しねーよ、バーカ!」
続きは落書きお絵描き。
「入ってもいいか?」
いつもは居丈高なガキが今日に限って妙に殊勝な態度なので、どうかしたのかと考えていたら言い訳する様にまたハヤトは口を開く。
「ニーナは、今日はいないんだ。家に帰ってる。」
ニーナというのはハヤト付きのメイドだ。子供がいるとは思えないほど若くていい女で、俺も仲良くさせてもらっている。ハヤトほどじゃあないが。
そういえばそろそろ息子の誕生日だと言っていた。
「……かあさまは、あたまがいたいからだめだって。」
俯くと、綺麗に切りそろえられた髪が揺れて微かに音を立てた。丸っこい手でぎゅうと開きかけのドアを掴む。それから、ぱっと思い出した様に顔を上げた。
「お前は、行かなくていいぞ。薬が要るほどじゃないって。本当に、行かなくていいからな。かあさまはとうさまのなんだから、お前が入る隙なんて無いんだからな。」
「へーへー。分かった、行きませんよ。」
いくら俺でも、雇い主の本妻にまで手を出そうとは思わない。今のところ間に合っているし、正直、この家は遊びで手を出すには厄介だ。
その厄介の申し子は、それを知ってか知らずか、また俯いて口の端を噛んで、ぽつりと呟いた。
「なあ、入ってもいいか? シャマル。」
この家は広く入り組んでいるので、俺がこのドアを閉ざしても、この子供は自分の部屋に帰らずそっと屋敷中のドアを(寝静まって誰も開けてはくれないドアを)ノックして回るのだろう。一晩そうしてすごせる程度には、この屋敷は広く入り組んでいる。
「……おねしょすんなよ、隼人坊ちゃま。」
「なっ、しねーよ、バーカ!」
続きは落書きお絵描き。