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    こちらは舞台裏、管理人のラクガキ帳カキカケblogです。
    もはや完全に整理整頓を放棄しています。
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こうしんりれき
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08在庫整理第七弾。

未完成。
これは先に言いわけ。
短いののトップ・シークレットのボツverです。





>PLAY
獄寺隼人は時々嫌な夢を見る。
それは、幼い頃から繰り返し見る夢。「嫌な夢」なんて概念を得る前から繰り返し彼を苛んでいた。
もともと、獄寺は明晰な夢を見る方ではない。ベッドに潜ってしばらくするとぶつりと意識が途切れて、再び気が付いたときには朝が来ているようなタイプだ。夢なんて見ない。夜とはただの暗闇。だが、ほんのときどき、その暗闇に荒涼とした寒い風が吹き込むことがある。
それはまるで水のような冷気だ。ひやりと肌に張り付いて、剥がそうとしても離れない。走って逃げても振り払えない。背後から、暖かな毛布の様に彼を包み込んで、肌を冷やす。冷たいシーツで彼をくるんで、どこかに連れ去ろうとする。
いやだ、このままでは捕まってしまう。連れて行かれる。いやだ。
そう思って、必死で逃げるのだけれど、やがて足が凍えて、縺れて転ぶ。頬が地面にぶつかって、痛いと思う前に冷たいと感じる。
冷たい。ぴしゃんと水の音がして、真っ暗な地面が水になり彼の身体を包み込む。
捕まってしまった。
彼は観念して、冷たい水の中で身体を硬くする。細い白い腕で__その夢では、彼はいつも気が付くと子供の姿になっている__腕で、自分の身体を抱いて、ぎゅっと目をつぶる。息を止める。
この胸の中までは『冷たい』に取り上げられません様に。
お祈りをして、すべてのチャンネルを閉じる。すると__

目が覚める。
跳ね起きて、咄嗟に肌に触れているものを振り払う。肺の奥で淀んでいた空気を吐き出す。すると、それはひどく生温かった。
それでやっと、またあの夢かと気付く。
心臓は狂ったような速さで脈を刻み、全身にはうっすら汗をかいていた。
また、あの夢だ。そうだちょうどアレが出てきそうなタイミングだった。
「__ああ、クソったれ。」
毒づいて、獄寺はベッドを一度蹴り付ける。
この夢は、決まって彼が安心している頃に訪れる。不安定な時や、苛ついている時は決して姿を見せない。

10代目は、ご存じないのだ。
オレが、この指にこの指輪を嵌めたのが、初めてじゃないことを。

|| STOP









言い訳反転>
というわけで、あれの別verです。
なにもわざわざ獄寺さんをかわいそうにしなくてもいいじゃんという訳で没にしました。
なんかまだ削除してなかったので、折角だから。
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08在庫整理第六弾。
未完成放置。





>PLAY


「獄寺さーん……、あのぅ、オレです、ランボです。その、獄寺さん宛に書類が届いてて、届けに……」
ノックしても声をかけても、ドアの向こうから返事はない。
なんて事だ。
この時間にって、連絡は行っているはずなのに。
だからこっちは遅刻しないように早く来て、15分も彼の私室のドアの前をさりげなーくいかにもただ通りがかった風を装って往復して、で、何度も何度も腕時計とにらめっこして、やっと意を決してノックしたのに。呼び出し時刻5分前なら、礼儀には反さないはずだ、と、勇気を振り絞って。
なのに、返事はなかった。ドアを開けるため近づいてくる足音も、当然ない。
(そもそも今まで獄寺がドアを開けてランボを出迎えてくれた事なんてない。大体機嫌悪そうに「どーぞ。」と声がして、ドアを開けなり「おっせーよ!」か「はえーんだよ!」のどっちかの怒声が飛んでくる。そりゃ、指定時刻に書類一つ届けるだけなのに、こんなにびくびくしてしまうのもしょうがない、と、ランボは自分で自分を慰める。)
さて本当にどうしよう。
ドアの向こうはしーんと静まり返っていて、どうしたらいいんだろうと途方に暮れるうちに時間は過ぎて、3分前になってしまった。
よし。
深呼吸して再びノックする。呼びかける。
返事、なし。
もしかして本当に予定時刻ぴったりでなきゃ受け取ってくれないんだろうか。
さらに3分待ち、(その間になんだかダラダラ冷や汗をかき出してしまったのは内緒だ。オレはそんな弱虫じゃない。)もう半分泣きたい気分でランボは3回目のノックをする。
「あの、獄寺さん! オレです! ランボです、書類届けに来ました!!」
…………返事、ないし!!
こうなってくるともう自棄だった。
どうせ怒られるんなら、もうこっちから乗り込んでって殴られてやる!
(痛いのは嫌だけど!!)
「入りますからね! し、失礼します!!」
カードキーでドアを開け一歩室内に入った。
薄暗い。カーテンが閉まっている。照明も点いていない。ソファにジャケットが脱ぎ捨てられている。そして、部屋の主の姿はない。
背後で、ぱたんとドアが閉まり、カチとオートロックで鍵がかかる音がした。
部屋が真っ暗になる。暗い部屋に(しかも獄寺さんの部屋に!)一人きり。
どおしよう……ねぇ、ボス、フゥ太、ボンゴレっ! オレ、どうしたらいいですか!?
ぐず、と、洟をすすりあげ、ランボは二間続きの隣室、閉ざされた寝室のドアに目を遣った。
やっぱり……起こさなきゃダメですか!?



ボンゴレは、現在世界一周外遊中だ。
旅程はおよそ3週間。本来ならば、獄寺も同行するはずだった。
が、出発直前に通信機のトラブルがあったのだ。地球の裏側とだってコンマ一秒のずれもなく鮮明な映像つきで会話できる……なんて21世紀も1/5終わった現在では当然の技術を、最先端のセキュリティ技術で何重にもガードした、飛行機より高価な通信機。それが故障した。原因は不明。といっても、最先端の固まりなだけあってデリケートな機械だから、故障発生自体はもはや運と確率の世界の話で、さして問題視されなかった。
問題は、これなしでは本部の通常業務が一部大幅に滞る事だった。半月以上も意思決定機関と連携が取れなくなるのだから無理もない。
そうこうするうちにも出立時刻は差し迫ってくる。通信機復旧のめどは立たない。過密スケジュールだから出立を遅らせるなんて論外。かといって本部を3週間も休ませておけるはずもなく……。
結局、たまたま本部に居合わせた笹川了平を「暇だったよな」の一言で獄寺が飛行機に押し込み、彼が一人本部に残って通常業務を処理することになったのだ。






『ダメな大人の見本がいる。』
寝室のドアを開けて、ランボの脳裏に浮かんだのはまさしくその一言だった。部屋にはタバコの煙が充満している。それから、くらくらするような強いアルコールの匂い。ランボは思わず顔の前の空気を手で追い払った。なんだか目がチカチカする気がして、目を眇めて部屋の様子を窺う。
薄暗い室内の壁際に置かれたベッドの上、毛布が一人分の膨らみを作っている。(こうしてみると、威圧感のわりに痩せた人だ)
そして、その向こうにぐしゃぐしゃに寝乱れた銀髪が見えていた。
……寝てます、よね。やっぱり。あの、ボンゴレ、ってゆーか……ツナぁ……
胸中で、ランボはこのダメな大人(と、自分)の保護者に呼びかける。
ここにダメな大人がいまーす。起こしてもいいですか? というか、むしろ、起こさなきゃダメですか? いや、オレ、正直そこにこの小包置いて帰りたいんですけど、規則上、手渡ししなきゃだし、これ、オレの仕事だし、寝ている方が悪いんだし……。オレ、悪くないよね? 間違ってないよね? 怒鳴られたらあなたの名前出していいですか? ボンゴレに言いつけますって言って、我が身の安全を図ってもいいですか? だって……
ランボはドアに寄りかかって、深い深い溜息を吐いた。
だってあの、殺されます、オレ。





置いてきぼりをくらった(と言っても、自分から言い出したのだから更にたちが悪い)獄寺の機嫌の悪さは、そりゃあとんでもないものだった。
さすがに仕事中は、部下に対しては、仮面のような平静さを保っていた。それが逆に怖い、と事情を知る本部スタッフはひそひそ噂していたのだが、それに対してもチビボムどころか怒声さえ飛んでくることはなかった。日常業務は粛々と処理されていった。ボンゴレの決裁が必要で、且つセキュリティレベルを考えると一般回線では転送できない重要書類が山になっていく以外は。
それら重要書類は、急遽獄寺に代わり一週間交代でボンゴレの護衛に当たることになった守護者、つまり笹川と山本が、引き継ぎの際に直接持って行く手はずになっていた。

ボンゴレが出立してから6日目。
書類を受け取りに来た山本は、「うわー、これ手で持ってくの? 江戸時代みてぇ」と言い、「第二次世界大戦でも主な通信手段は伝書鳩だったんだよ、この鳥並みのバーカ!!」と理不尽な称号を授かった。

9日目。
サンパウロで山本と交代して本部に戻って来た笹川はほぼ手ぶらだった。
獄寺に一週間分の外交記録を渡し、ランボには「これは沢田からな」となぜかチョコレートを渡した。
「てめー、仕事して来たんだよな?」
「護衛のな。あ、初めてサッカーを球場でみたんだが、団体競技はやはり極限まどろっこしいな。ボックス席からでは人が豆粒でよくわからん。途中、どこかの裏道で見かけたカポエィラの方が面白かったぞ。あれは、たしかリオだったか……」
「芝生、お前仕事して来たんだよな! てめーのことばっかじゃねぇか!」
一瞬、笹川は考える。
「沢田は、退屈そうだったぞ。」
「外遊ってのはそんなもんなんだよ。」
獄寺はため息をついた。
「ところで、飛行機に押し込まれてしまったが、オレのやりかけの……」
「ああ、決算はオレがやっといた。お前のサインがいる奴だけのこってるから、目を通しとけ。あと、グスターヴォの五番街、なんか縄張り揉めそうな気配だから顔出しとけ。てめーが行きゃ収まんだろ。」
「やれやれ、人使いが荒いな。」
うっせーよ、とぼやいて獄寺はタバコに火をつけた。
「つか、てめー、字が汚ねぇんだよ! 引き継ぎ考えてもっと丁寧に書きやがれ! 読めねぇんだよ!」
「ハハ、日本語で書いてもいいのならな。」
笹川は苦笑いし、部屋を出る途中にポンとランボの頭を叩いた。
なるほど、これはそういうチョコレートか。
ランボは納得し、これでまだ全日程の1/3も済んでいないという事実に泣きたくなった。

13日目。
笹川が、再び本部にデータを受け取りにやって来た。留守中に任せる仕事を獄寺に引き継いで、引き換えに受け取った書類の束をみて驚く。
「タコ頭。これは山本のときより増えてるのではないか?」
「しょーがねーだろ。もうすぐ2週間だ。番号振ってあるから順番に始末するようにお伝えしてくれ。多分、いくつかは山本の出立までに片付く。」
「……それだけか? 伝言。」
「他に何があんだよ。」
獄寺は寝不足気味の血走った目で笹川を睨む。
「わかった、伝えておく。」
言い残して笹川は部屋を出て行った。

そして、15日目。
上海で笹川と交代して帰って来た山本は、預かって来たデータファイルをどさっとボンゴレの机において、『それから、これは伝言な』と、彼は言った。
「ツナが、『オレがいないからってタバコ吸いすぎたりお酒飲みすぎたり徹夜したり食事抜いたりするなよ』だってさ。」
もちろん、とっくに全部やっている。
苦虫をかみつぶしたような顔で獄寺はコーヒーをすすった。
なんでこの場に居合わせちゃったんだろう。
ランボは後悔した。なんでって、そのコーヒーを入れたのが、ランボだったからだ。
山本は獄寺を取り巻くギスギスどろどろしたオーラにもちっとも動じていなくて、それが余計に獄寺の苛立ちに拍車をかけていた。ランボはお茶を入れようなんて余計な気遣いを思いついてしまった事を心底後悔した。
逃げよう。さりげなく、何もおこらないうちに。
ランボが後ろ手にそーっとドアノブに手をかけたところで、「獄寺さぁ、」と山本が言った。
「そんなにいじけんなって。また次の機会あんだろ?」
がっしゃん!
これは獄寺がカップを机に叩き付けた音。
「誰がいじけてるって? おい、てめ、もっぺん言ってみろ!」
「え、『いじけてる』じゃだめ? 『拗ねてる』のがいい?」
「そーゆー問題じゃねえ! 馬鹿にすんのも大概にしろよ、この……」
この辺で一発蹴りが入った。ような気がする。バスン、と衝撃を受け止める音。
けれど、衝撃を完全に止めることはできなかったんだろう。どんがらぐぁっしゃんと何かが崩れる音をランボは耳を塞いで聞いていた。
片付け、山本さんが手伝ってくれるといいなあと淡い望みを抱きながら。いつもの調子で宥める声が聞こえてるから、大丈夫だと思うんだけど。ブン、と風を切って彼が手を振り払う。
ばさばさーっと、今度は積んであった紙の資料が崩れる音がして、合間から山本の声が聞こえた。
「まあ、気持ちはわかねーでもねーけど、」
それから、ひどく優しい、軽いため息。
「ツナも、拗ねてたぞ?」
物音が止んだ。
そろーっと縮めた首を回してランボが様子を窺うと、獄寺と目が合った。頬が紅潮しているのは、乱闘の所為じゃない。
「……見てんじゃねぇよ!」
「はっ、はいっ! ごめんなさい、お邪魔しました失礼しますっ!」
逃げるように、ランボは部屋から飛び出した。閉まりゆくドアの隙間から山本の声が漏れ聞こえた。
「さーてと。じゃ、さっさと片付けて、たまには二人でメシ食いにでも行くか? どーせタバコと酒しかやってねーんだろ?」

そして今日は17日目の朝。
定時報告によれば旅程はつつがなく進行している。あと5回夜を越えればボンゴレが帰ってくる。
その5回が、とんでもなく長いんだけど。
それだけあったらどれだけのコトが起こりうるだろうとランボは考えた。考えたら、泣きながら逃げ出したくなってきたので、考えるのをやめた。
とりあえず、獄寺さんがカートン単位でタバコを消費するぐらいの時間がある。うわあ。









昨日、そんなに遅くはなかったよね? 二人の帰ってくる足音。
ベッドの、一人分の膨らみを見ながらランボは考える。
なのに、こんな時間までぐっすり寝ているのはとても珍しいことだった。
現在時刻は午前8時。いつもなら彼はとっくにシャワーを浴びて着替えと朝食を済ませて、執務室に行く前のわずかな時間を利用して新聞に目を通しているはずだった。
ランボは、まだどうしたものか決断できずにいた。
ともかく、足音を忍ばせて、彼の頭の方に歩み寄る。
アルコールとタバコの煙と、それからなんだか涙腺を刺激するような香水の匂い。それが、一層強くなる。
彼のベッドはひどく乾燥して見えた。白い(純白じゃない、ブリザードみたいな掠れた白だ。)上掛けが足下から背中の半分ほどまでを覆っていて、露になっている白い背中は、やはりひどく渇いているという印象をランボに与えた。
自分の背中なんて見た経験はないけれど、自分の腕や胸の白のしなやかさに比べて、ひどくさらさらとまるで砂みたいに渇いていると思ったのだ。
その代わり、傷は、驚くほど少なかった。あんなに始終我が身を粗末にするなとボンゴレに言われているのに。もしかしたら、彼はいつも爆風を正面から受けて、背後のボンゴレを守るせいかもしれない。
一番大きな傷は、彼の左肩にあった。刀のような細い直線上の傷じゃない。爆風に飛ばされた破片、大きなコンクリート片が掠めでもしたのだろう。まるで、枯れたの柊の葉のような傷跡だった。
痛そうだな、と思う。触ってはいけないような気がする。
小さな包みをぎゅっと抱えて、ランボは声を張り上げた。
「……あの! 起きてください、獄寺さん。ボンゴレから届け物です。」


|| STOP









言い訳反転>

元々は長編で大人ランボを書くために練習で書き出したもの。
オチを決めていなかったのと、本来の目的の長編が書き終わったのと
ツナが出てこないので(最大の理由)優先順位争いから脱落して未だに未完成。


08在庫整理第五弾。

完成済み。





>PLAY


ずっと見ていた。
その人は、自分が知る限り一番最初は、同じクラスの女子が好きだった。
中学三年間はその女子のことが好きで、卒業して縁遠くなって、高校に入って別な女子をかわいいと言っていた。
けれどその女ではなく更に別な女が告白というものをしてきた。どう思うと聞かれて悪くないんじゃないですかと答えた。少なくとも10代目を好きになるという時点で他の女より見る目がある。
そうなんだよねえと10代目は答えて、翌日から二人は『友達』になり、ひと月ほどで『恋人』になり、半年後に別れた。『元・恋人』になった女曰く、沢田君は誰にでも優しすぎる、のだそうだ。
月に一度ほど浮気を疑われ、10代目は根気強く女のヒステリックな訴えに耳を傾けていたけれど、やがて女の方が関係の打ち切りを申し出た。(10代目がそんな不実なことをするはずないだろうに、見る目のない女だ。)
その女が別な男を作った頃、10代目にもまた告白というのをしてくる女が現れて、今度は友達を経由しないで恋人になった。確か3ヶ月ぐらい恋人だったはずだ。
三ヶ月目のある日、今度ははっきりと、女の方が別な男を作ってそれを理由に別れを切り出した。実は10代目の方もその3ヶ月のうちに別な女から告白されていて、付き合ってる人がいるから、という理由で断っていた。
別れたという噂が広まったところでその女が再度浮上して、恋人の座を勝ち取った。(ちなみにこの辺の話が入り乱れているのはこの3ヶ月間にクリスマスと冬休みとバレンタインが含まれるからだ。)その女とは次のバレンタイン辺りまで続いて……、ああ、振り返るのが段々めんどくさくなってきた。以下略だ。
ともかく、いつの間にか10代目は頻繁に思いを打ち明けられる様になり、10代目は余裕があればそれを受け入れたし、他の女で埋まっていれば丁重に断った。告白された、付き合うことにする。そう言われる回数が増えて、どうしようかと聞かれる回数はほぼ0になった。
イタリアに来て3年になる。
この前、10代目は管理部の女に優し過ぎて不安になると言われ、お別れしたばかりだ。今なら、だれが愛を告げても求めても、彼は与えるだろう。穏やかな微笑みを持って応えるだろう。
医療科の才媛が、オペラを観に行く相手を探していて、オペラは今夜で、今夜10代目はご予定がない。
チケット2枚を、書類の捌けたデスクの上に置いた。
「ねえ獄寺君それ……断れないかな?」
「……は?」
初めて聞く言葉だったので耳を疑う。
「だめ?」
「いえ、構いませんけど、あの……」
「あ、オレが独自に彼女について何か握ってる訳じゃないよ。何か裏があるとかじゃないから。うん。獄寺君が黙って見逃すくらいなんだから、魅力的な女性なんだろうと思うよ。断るのは、オレの個人的な都合。」
そこで10代目は短く言葉を切った。
「なんだかずっとさ、オレなんかのこと好きだっていってくれるから、オレもその人のこと好きになれば喜んでもらえるかと思ってたんだけど、どうも逆みたいでさ。なんか、逆に不幸を振りまいてる気がしてきた。だから、もうやめることにする。」
だからごめん、その人を傷つけない様に、上手く断っておいてくれないかな?
申し訳なさそうに、10代目は仰った。
オレは、10代目のご命令ならばもちろん、どんなことでも完璧遂行してみせるけれど。
『好きだっていってくれるから、オレもその人のこと好きになれば喜んでもらえるかと思ってたんだけど』
(じゃあオレが、今まで一度でも好きだって言っておけば?)
(おれがそうだったかもしれないのに?)
『なんか、逆に不幸を振りまいてる気がしてきた。』
(オレはそんなこと思わないのに。)
(ああ、なんて見る目のない奴ら。)
『だから、もうやめることにする。』
(だけどもう、後悔したって遅いのだ。)
ああ、今日はオレ、上手く取り繕えないかもしれない。

「ところでさ、獄寺君今夜ヒマ? どこか食事に行かない?」

このひとはなんて、優しくて残酷。



|| STOP









言い訳反転>
大人ツナはモテるのではないか説を検証してみた。
書いてる途中で、それじゃツナ獄にならないじゃん(当たり前)に気付いて放置してた。
ざっくり書き上げて公開。

08在庫整理第四弾。

完成済み。





>PLAY


研ぎ澄まされた刃の上を、蝸牛が這う。
触れれば切れるような刃なのに、
蝸牛は臆することもなくのうのうと、のろのろと歩む。
這った跡が濡れた様にぬらぬらと光る。
柔らかな舌先でさえ、触れれば切り裂く刃なのに。




来客が襖を開けた。春の通り雨のような、音もなく近付いてくる気配で誰だかわかっていたので、顔を上げる必要もない。
また君か、と言ったら、またオレだよ、と、妙に拗ねたような声でかえってきた。
珍しい。
「オレだってたまにはツナの護衛したいのにさー、獄寺の奴ぜってーゆずんねーの。またオレが日本行き。」
傍らに刀を置いて、膝を立てる。腰を下ろす。その所作だけは板についている。その所作以外はまるでなっていない。
だらしなく胡座を掻くと、こともあろうか勝手に脇息をとりあげて__僕の側にあったものだ。それを文机越しに持ち上げて__自分の胸の前に置くとそれにだらりと身体を預けた。
「昔はすぐムキになったから勝ち目あったけど、最近妙に余裕なんだよなあ。オレ、獄寺みたく頭よくねーもん。真っ当に口論じゃ敵わねーし」
あーあ、本当にオレ、ツナの顔見て帰ってきただけだなぁ。
そっぽを向いて似合わないため息を一つ吐いて、男は話を終わりにする。顔をこちらに向ける。
「そんな訳でヒバリ。マカオのなんとかって言うのがやられたって。やったのがどこかと、そこの持ってたリングとボックスの行方しらね?」
「霧だったから、あげないよ。」
「あ、やっぱり。後始末は? ヒバリのことだからしっかりやってるんだろーけど。」
「さあ。細かいことは忘れたな。哲に聞いてよ。」
「ヒバリが忘れてることは草壁サンも忘れてるよ。」
眉根を寄せる。
「参ったな、どこから調べよう。つか、ヒバリひどくねえ? どーせオレが来るってわかってんだからもっとわかりやすく隠蔽してくれても……。どのみち、オレも報告するときにキッツイところは書き換えるんだし。」
それから、乾いた笑い声を漏らした。
「ダメだな。すっかり慣れちまってる。そりゃ、ツナの右腕はもう無理だよなぁ」
知らない奴が死んでも、やっぱ知らない奴だしな。
山本は、今度こそ脇息に顔を埋めて、あーあと呟いた。
「沢田綱吉の何処がそんなにいいんだか。」
一瞬遅れて、目線だけ上に上げる。
「君に、あの赤ん坊に、なんでみんなあの男の周りに集まるのかな。この世の謎の一つだね。」
山本が顔を上げる。行儀悪くヒトの顔を指差す。
「ヒバリだって、集まってるうちの一人だろ。」
「つまらない冗談だね。」
僕は動いてなどいない。君が勝手に行ったり来たりして繋いでいるだけだ。
「へーへー。ヒバリ様の仰る通り。そーゆーことにしときやしょう。」
おどけて言うと、男は脇息から体を起こした。
もう行くのか、忙しない奴だ。
と、思ったらまたぺたりと身体を伏せて、下から僕の顔を覗き込んだ。
「なあ、」
「何? 話が済んだならさっさと行けば?」
男は聞く耳を持たない。
「なあ、さっきのあれ、もしかしてヒバリ拗ねてた?」
「……何の話?」
「最初の話。沢田綱吉のどこがいいんだかって、あれ。」
ああ、蝸牛のような男だ。
今更理解するなよ、莫迦。
笑うな。そのニヤケ面を仕舞え。




|| STOP









言い訳反転>

ヒバリに「どこがいいんだか」って言わせたかっただけ。
他の原稿が頭塞いでたので完成させるの忘れてた。
あはは。


08在庫整理第三弾。

完成しているけど自己没にしてたもの。

不健康注意。





>PLAY


いたいよ。

突如謎の暗黒巨大組織のボスになって数年。
気がついたら降り掛かってくる火の粉も、
それを払いのける事も当たり前のことになっていた。
もういっそ、月に一度の大掃除?
で、当然のように自称右腕さんも手伝うと言い張ってついてくるので、
(正確には、『オレの仕事です!』と言い張るので、)
なので、
今日は二人で、人気のない森の木陰でピクニックです。
ちょっと辺り一面焼けこげてるけど。
サンドイッチの入ったバスケット、じゃあなくて、
止血帯が入った処置キットなんだけど。
だけど、
二人っきりでぼーっと出来るのなんてこんな時ぐらいなので、
ああ、もしかしたらオレ、結構楽しみにしているのかもしれない。
月に一度の大掃除デート、中ボス付き。

「……あ、獄寺君、」
「はい?」

彼がこっちを向く。
作戦は無事終了して、オレたちは小さな山火事の鎮火を待っている。
ぱちぱち爆ぜる若木を見ながら
肩をくっつけて二人で並んで
足を投げ出してぼんやり座っていた。だから
お互い見合うとおでことおでこもくっつきそうだ。

「ここ、血。」

頬に手を伸ばして、
親指でこすったら茶色の破片がぱらぱらと落ちた。

「ああ、きっと擦り傷っスね。色々ぶつかったんで。」
「うん。もう乾いてる。」

白い肌の上に鬱血のあか。
その中心に、細い細い真っ赤なラインが一筋。
オレたちは返り血を浴びるようなことはしないから、
血が付いていたらそれはオレの血か彼の血で、
オレには滅多に血の飛び散るような傷は出来ないから、
(だって獄寺君がガード張るから)
だから彼に血が付いていたらそれは彼の血で、

だけど、彼の傷はオレの傷だ。

オレのせいだからオレの傷だ。
オレの傷なのに、それが彼の身体についているのは変だと思う。
オレの傷なのに獄寺君が痛いのはおかしいと思う。
絶対どっか間違ってると思う。

でも、


そんなこといったら、あいつらだっていたいんだ。


でもあいつらはべつだ。
あいつらが先に手を出したんだから、
あいつらはべつだ。
あいつらがいたいのはべつ。
そう考えろってリボーンが言ってた。
リボーンが言ってたから今はそう考える。
今はそうしろって言ってたから、いまはそうする。

そーいえば小学校の算数の分数の割り算、
どうしてこうするのって聞いたら
いいからいまはひっくり返してかけ算しなさいって言われたけど、
大きくなったらわかるって言われたけど、
今でもわかんないや。
(獄寺君知ってるかな。頭いいし。)


でも、正当な理屈があるのだとしても、
それが頭悪いオレにはわからないだけだとしても、

オレの傷が、獄寺君についてるのはおかしいと思う。



「痛い?」

親指で擦って、聞いてみた。

「……ちょっと、ヒリヒリします。」

獄寺君は……

大丈夫な時はちゃんと「痛い」というようになりました。
でもあいかわらず大丈夫じゃない時は大丈夫だと言うので、
あんまり意味がありません。
ていうか、

オレの傷なのに獄寺君が痛いんじゃ、
本当に全然意味ないんだってば。

おでこをくっつけてみた。傷口に指で触れたまま。
だめだ、やっぱりオレは全然痛くない。
もうちょっとくっつければ痛くなるかなぁ、と、
オレは今度は唇をくっつけてみようと思った。
おもった、ら、

「ぅわ! ちょ、10代目!?」

おもいっきり拒否られた。
肩からぐいっと突き放された。
腕一本、真っ直ぐ伸ばした距離の向こうに、
まっかになった獄寺君の顔。

「……ぶー……」

変な声出したのは、オレ。

なんでそこで赤くなりますか?
めいっぱい遠ざけますか?
ちょっとキスしようとしただけだぞ、オレ。

つーか巻き戻して言うけど、
おでこくっつけた時点でキミ
そーとー顔赤かったし脈拍上がったし緊張してたよね。息止めてたもんね。

オレたちついさっきまで背中合わせで戦ってませんでしたか?
君ってば容赦なくオレの二の腕掴んで地面に押し倒しませんでしたか?
何のためらいもなく腰に手回してオレを引き寄せませんでしたか?
耳元でひそひそ作戦打ち合わせたりしてませんでしたか?
そこんとこどうなんですか?
ああ、オレ、この世の不条理に文法もめちゃくちゃだ。

だって獄寺君おかしくないか?
あの時ちょっとドキドキしてたのはオレだけか?
んで、君は今更ちょっと顔寄せただけでその反応?

「……ぶー……」
「だ、だって、ですね、」

変なうなり声だけで、必死に弁解を始めようとしてくれるのは
それはこのやり取りさえお馴染みのものだから。
だから、彼の頭脳を以てしても
今日もやっぱりオレが納得できるような
斬新で画期的な説明が出てくるはずもなく

「……ほんと、勘弁してください。10代目……」

何回か口を開け閉めしたあとで、彼の口から出てきたのはその一言だった。
言葉では拒絶しながら、彼は突っ張った腕から力を抜く。
オレは彼を地面に横たえる。
ああ、震えてる。
爆発炎上のど真ん中で、膨れ上がる熱風に煽られて、
あんなに平然としてたのに、揺るぎなかったのに、今更オレの身体の下で、
体中爆発寸前の心臓になったみたいに震えてる。
オレはつい笑ってしまう。
獄寺君は思いっきり困った顔で、
(こんな顔はこんな時しか見せてくれない)
オレに抗議する。

「あの、10代目、今日はここ、外なんスけど……」
「うん。こーゆーのを日本語ではアオカンと言う。」
「……知ってます。」
「獄寺君物知りだねぇ。」

一度口づけて、
(少し鉄の味がした)
ほんのちょっと身体を浮かしてベルトに手をかける。
獄寺君は、万が一に備えて
手首のブレスを外す。
内側にぎっしり小型のダイナマイトが詰まってる。
裸になった手首を掴む。
ああ、ここだけはいっつも傷一つない、日焼けさえした事がない、
獄寺君の本当の部分。
どきんどきんと脈打っている。
そこを掴んで、
バンザイの姿勢で押さえ込んで、囁く。

「最後までは、しないから。」

がああああっと赤くなった顔で、もぞもぞと獄寺君がいう。

「か、帰らないと、リボーンさんに死んだと思われますよ?」
「オレ、もうそこまでダメツナだと思われちゃないと思うんだけど。」
「つか、そろそろ処理班が……」
「だから適当にやめてあげるってば。」
「服、汚れたらどーすんスか?」
「燃しちゃえば? 経費で落ちるよ?」
「ついでに、オレの査定も下がります。急所に一撃って、」
「あはは。口添えしてあげるから、そんときは通訳お願い。」

笑いながらまた頬の傷口をぐいって擦ったら、
彼はちょっと眉根を寄せる。
オレが、
痛くなれたらいいのに。
でもそんなのは無理なんだ。
無理だからせめて、オレが直接痛くしてあげるよ。
グッチャグチャにして、わけわかんなくしてあげる。
君は、アイツらとは違うから、
オレのせいで君に傷がついて、
君だけ痛いなんて納得できない。
オレは無傷で痛くないなんておかしいよ。
耐えらんないよ。
オレが直接痛くしてあげる。
君を傷つけて、ぐちゃぐちゃにして、
オレが、君を、傷つけて、
ぐちゃぐちゃにしてやる。ボロボロのどろどろにしてやる。
君は、アイツらとは違うから。
君はアイツらとは違うからオレの大事な人だから
ぐちゃぐちゃにしてどろどろのボロッボロにして
思いっきり痛めつけて泣かせて、
オレが。

オレにやらせてよ。オレのせいにしてよ。オレに傷つけさせて。

シャツの裾から手を忍び込ませたら、彼の身体がびくんと跳ねた。
この身体は鼓動している。生きてる。
それを、お願い、確かめさせて。

オレのために君は痛みを恐れない。
だから、オレは君を傷つける。
そして、君はそれさえ痛みとは呼ばないだろう。

ねえ獄寺君、オレには、それが痛いんだよ。
分け合えて減らせればいいのに、なんで、こんなに膨れ上がっちゃうのかな。
ねえ、いつまでオレを、飲み干してくれるの?






|| STOP









言い訳反転>
あまりにポエムなんでどうにかしようと思ったまま、どうにもならない。のでお蔵に入れてました。

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